第2話 SM。留まることのない快楽。

貴方の手で私を傷付けて…


深く深く、跡が残るくらいに。


私はその傷を見つめながら恍惚に浸るのです。


貴方は私の心を支配したと思っている。


でも実際に支配しているのは私。


貴方は、私の言う通りに私に傷を付けるだけ。


そうして、互いに快楽を貪っている。


ある海外のドラマで、女の人が言った台詞がある。



『Sが支配しているように見えるけれど、実際に支配しているのはMの方』



確かにその通りだ。


SはMを喜ばせる為に鞭を振るう。


それでSは支配した気になっているだけに過ぎない。


実際にはMの方が一枚も二枚も上手なのだ。


私はソレを知っているから、いつも貴方には私を支配させた気分にさせる。


すると欲望が溢れだし、私をいつも以上に痛め付けてくれる。


私はそんな痛みにだけエクスタシーを感じる。


激しく罵られ、叩かれ、切り付けられ、首を絞められても、私にはその行為の全てが快楽になって押し寄せてくる。


自分でも異常だと解っている。


でも、貴方に罵られるのを想像しただけで私は濡れてしまう。


貴方が自分を異常者だと思っている以上に、私は異常なのだ。


今日もまた、私は貴方に乞う。



『お願い…』

『解った…』



部屋に響く鈍い音。


貴方の目は私を見つめたまま虚ろになる。


私自身も、快楽に顔を歪める。


彼は言った。



『僕の為に死んで…?』



堕ちた。


彼は私の罠に掛かったのだ。


愛する者の手で畢りを迎える事が私の夢だった。


今その夢が叶う…



『私を殺して…貴方の手で…』

『あぁ…』



彼の温かな指が私の喉元にくると、彼は私を見つめたままその指に力を籠める。


私も彼も微笑んでいた。


愛する者の手で逝ける喜びはさらなる快楽を生む。



『最期まで私を愛して…』


苦しみながら何とか紡いだ言葉。


彼は一瞬その言葉に戸惑ったようだ。


彼の指から少し力が抜ける。



『止めないで…』



そう言うと、また力を籠めてくれる。


私はなんて恵まれた幸せな瞬間だろうと思った。


意識が朦朧とする中で、彼の愛を確かに感じることが出来る。


それが堪らなく嬉しかった。


私には、遺言が彼へのラブレターなのだ。


いつか、彼が私を忘れ他人を愛したとしても、私の中の彼への愛は消えることは無い。


永遠に…


事切れた私を見つめて、彼が笑った…





end.

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