9 またソナエさんの退屈病がはじまった(珠州)
調整官ソナエは退屈していた。
彼がヒトの姿を借りるようになってからは、まだ自己崩壊する知的文明を見たことがないが、それはむしろ珍しいことかもしれない。彼よりも若く未熟な調整官の何対かは、知的文明の勃興と発展と崩壊を見届けている。ヒトの通常の命の数十倍を生きるのが常である彼らの種族は、この宇宙で自我と知性に目覚めた数多くの生命体の中でももっとも古いものの一つだった。
調整官は上部組織に報告し、監視はするが、干渉することは滅多にない。公式に彼の存在を知っている者は彼を、銀の仮面をつけた顕現者として、新しい神を冒涜するが排除はできない者として考え、扱っている。
ヒトの姿は男性体の、やや大きめで赤い髪を持った若者で、
諸王の王であったカナタの浄化の件に関しては、複数の関係者から報告を受けていたが、彼とその所属する組織は、その手のことにかかわらないことは、知っている者はみな知っているので、助言は誰からも求められなかった。
政府の情報提供と、それの分析・解析者による報道は、それ以上の事実を知る助けにはなったが、ソナエはそれらの情報を数百字の簡易公用文で上部組織に送ることしかしなかった。
王や領主の、浄化による交替は、たとえ真の下手人が不明であっても、さほど稀なことではない、とソナエは思った。
「またソナエさんの退屈病がはじまった」と、集合住宅の大家の娘であるカヤノは、監視虫の退治に彼の部屋に入って来て言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます