8 わたしの主は手強いよ(珠州)
珠州における諸王の王であるタクミが第七日の午後、後継者を指名しないまま浄化したので、四人の後継者候補の代理人はその日の夜に非公式の会談をした。代理人は主の命により、成熟初期の女性体形を持つことになっている。
「現時点での調査報告は拝見しました」と、諸芸と教育の代理人であるカナタは、視力矯正と心を隠すために使用している眼鏡の、鼻に当たる部分を左手で触れながら言った。
「暗殺の下手人は異人であり、その身体は確保されたが、記憶と人格形成のための体系は、即時に分解され、ヒトとしての指示者は誰なのか不明。引き続き関係者に当たってるけど、うまくいくかどうかは正直なところわからないね」と、法と秩序の代理人であり、かつてのタクミとも親しかったヨシミは、やや小さめの体の肩を震わせながら言った。
「疑心で事に当たられると、いちばん立場が弱いのは私の主なのだが」と、財政の代理人であるイサカは、豪奢な金髪を揺らして、いささか苦笑しながら言った。
「諸王の王にいちばんいとまれていたのはわたしの主のほうよね。歴史のある広大な自治領を継続して保持し続けたせいで」と、行政の代理人であり、四人の代理人の中でもっとも年長のナカスは、おっとりと言った。
「真の下手人探しは早急の問題です。というのも、それが我々四人の主との関係があることがわかれば、正規の後継者としては外されることになるでしょう。緊急時には、我の主が代行をすることは決められていますが、諸王の王と正式になることは、議員も含めて現時点では少数派の意見にすぎません」
「そういうのなんとかしちゃうのが、カナタの腕なんだよなあ」と、ヨシミは挑発的に言った。
「疑心と利で動けば、周辺諸州の傀儡が後継者として選ばれることになるかも。わたしの主は手強いよ」と、ナカスは言った。
*
分裂前の諸州が統一されていた時代、
今の珠州は、周辺の六つの諸州と比べると小さい州だが、かつては交通の要衝であり、宝玉の産地でもあった関係で、諸州の富を情報蓄積とその歴史で圧倒していた。珠州を征する者は天下を制す、とまで言われていたその州は、崩壊の危機にさらされていた。
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