5 若は人を消す殺人者のような笑顔しかできないのでは(弥州)
マモルとマコトは人工のふたごの女子で、鏡像であり、アカネの世話係になって3年になる。マモルはマコトより2刻早く起き、マコトはマモルより2刻遅く寝る。マモルは左、マコトは右の片側の髪を結んでいる。マモルの髪の毛と瞳は金色で、マコトは銀色である。マモルはマコトより知力が高いと思っており、マコトはマモルより判断力が優れていると思っている。ふたりとも自分のほうが相手より少しだけ可愛いと思っている。
アカネの朝食にはマモル、昼食にはマコトがつきそい、夕食にはふたりがアカネと同じ席につく。マモルは朝から昼までの領内の女子の噂話を集め、マコトは昼から夕方までの男女の噂話を集める。
領主の娘であるアカネの朝餉は、穀類と豆類、魚類、それに生野菜と海藻と果汁で、量は多いが領内の武人と比べてもさほど変わったものではない。
「昨日のお前の出した問題、私は寝る前に考えていたら眠れなくなって困った」と、アカネは共に食事をしていたシズナと会話をした。
「ああ、あれですか。若のお答をお伺いいたします」
「問題はこれだったな。ある若者に三人の娘が恋をした。ひとりは毎朝起こしに来る元気な幼なじみ、ひとりは金持ちの商人の娘だが性格がおとなしいお嬢様、ひとりは領主の娘だが勝ち気でわがまま。若者はその三人のうち誰を選ぶか」
「はい」
「私の答は、そんなに都合よく三人の娘から好かれる若者はいない、だ」
マモルはそばで聞きながら、心の中で爆笑し、口元を手で押さえた。
マモルは知っている。シズナの回りにはその三人は実在するということを。幼なじみは旅をしており、金持ちの娘は大学に通っている。しかし、領主の娘も含めて、恋はしていないだろう、と、マモルは思った。
「そうですよね。私の答は…笑顔がいちばん素敵な娘を選ぶのでは、と。…はなはだ失礼ながら、今、若がされておられるのは笑顔ではありません、苦笑いです。若は人を消す殺人者のような笑顔しかできないのではありませんか」
そう言ってシズナは、アカネの横に立っていたマモルに、人を恋に落ちさせるような笑顔を向けた。
「確かにその通りなので反論はできない。人の心というのは難しいものだな」と、アカネはため息をついた。
「いい考えがあります。領内を離れて、若を知らない者と接してみるのはいかがでしょうか。領内の民はみな若を知っており、畏怖と敬意を持って接しておりますゆえ」
アカネは長考して答えた。
「悪くない。それでは私とお前だけの旅では少し問題があるので、マモル、お前も一緒だ」
あたしがですか、とマモルは思った。夜ふかしと男子が苦手で、判断力にとぼしいあたしが。
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