第7話 さよならを言う前に

 やあ、おいらです。

 今日は午前中は歯医者に行って、右上の犬歯の義歯、つまり入れ歯の最終チェックをしました。入れ歯ですよ、入れ歯。義歯倭人伝とか言っている場合じゃないんです。おいらの老化が確実に進んでいるんです。他人事じゃありませんよ。歯は大切に。お口の恋人、ロッテ騒動。


 それから、午後は昔一緒に過ごした、ねこが間もなく天国へ行ってしまうというので会いに行きました。チビって言います。このねことの出会いと別れについてはあんまり話したくないので書きません。でもおいらの人生で唯一なついてくれたねこがチビです。

 長い坂を登って、チビのいる家に行きました。チビは玄関ごしの廊下にじっとしていました。もう五日もエサを食べていないそうです。チビと離れ離れになって四年。脳みそのちっちゃいチビはおいらのことなどすっかり忘れています。そういうものなのです。仕方ありません。呼んだって来やしません。それどころか、自分の体勢を維持するのも億劫そうです。チビは十九歳。人間に例えると百歳近い老ねこです。それがエサも食べず、動くことも難儀しているのです。残念ながら、さよならの日が近づいています。おいらはチビの腕を(ああ前足か)をさすります。体温が下がっているのが分かります。思わず持ち上げて抱きかかえます。抵抗はしなかったものの、いやそうでした。おいらの思いなど、チビには分からないのです。悲しいけれど、それが現実です。でも、おいらは、たぶん生きて会うことは最後になるであろうチビを一生懸命さすりました。体温が上がって、少しでも、一分一秒でも長くこの世にいて欲しいからです。チビにとっては迷惑な思いかもしれません。でも、自分勝手なおいらはチビの体をさすり、前足を握り、耳を撫で回しました。ある種、青春時代をともに歩いた同志を忘れないための儀式だったのかもしれません。そんなことも分からないチビは眠ってしまいました。優しいねこでした。夫婦喧嘩をしていると、仲裁に入ってきました。おいらが仰向けで寝ていると、腹の上にダイブしてくるというお茶目なところもありました。色々な思い出をくれました。

 そのチビが、間もなく旅立つ。これはペットを飼う者の宿命かもしれません。しかし、抗いたい気持ちでいっぱいです。生きていて欲しい。

 しかし、それはおいらのわがままです。それは分かっています。でもその瞬間まで、祈り続けます。


 そんなわけで、今日は一つも小説を読めなかったし、当然、書けもしませんでした。

 グリムノーツも恋愛小説コンテストも関係ないさあ〜。

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