07

 ティアナが寝た後、ヴァレッドは朝食を済ませると執務室に向かった。そこにはカロルと消えたはずのレオポールの姿がある。彼の左頬は赤く、もみじ型に腫れ上がっていた。

「ずいぶんと派手にやられたな……」

 ヴァレッドは半眼になりながら目の前のレオポールを眺めた。レオポールはその頬を撫でながら、苦笑いを浮かべた。

「いやぁ、怒られてしまいました」

「当然だろう」

 ばっさりと切り捨てて、書類に目を落とす。そこには、あの教会でカンナビスを栽培していた者達の名前が書かれていた。その隣には出身地と簡単なプロフィールが記してある。

「この犯罪グループ、出身地が北東の地域に固まっているな。レオ」

「はいはい。北東地方の犯罪に関する資料はこっちにありますよ。件数とその内容についてもまとめていますが、なにぶん数が多いので私が厳選させていただきました。全件見たいようならまた仰ってくださいね。一応、用意はありますから」

「助かる」

 厳選したにしても分厚い書類を受け取る。一枚一枚丁寧に内容を見ていくヴァレッドを見ながら、レオポールは息を吐いた。

「そろそろ専属の情報屋が欲しいところですよねー。でないと、これだけ広い地域を管理しきれませんよ。もちろん、土地土地で雇ってる衛視の者達からの情報は上がってきますが、どうにも精度に欠けますし……。これでは怪しい場所の特定に時間が掛かってしまいます」

「それはしょうがないだろう。彼らの仕事は土地の治安維持だ。情報はそれのおまけに過ぎない。専門家と比べてやるな」

 書類に目を落としたままそう言い、ヴァレッドは眉間の皺を揉む。

「わかっていますって、だから専門家が欲しいんですよー。アンドニ様の頃に契約していた情報屋は、もう廃業されているご様子ですし、どこかに良い情報屋が落ちていませんかねー」

「落ちてはないだろう。情報屋に関しては俺も同意見だが、無い物ねだりしていてもしょうがない。今は上げられている情報を吟味して、地域を絞っていくしかないだろう」

 ヴァレッド達はあの犯罪者グループの大元を探っていた。確かにカンナビスを栽培していたのはあの者達だが、栽培されていた量からいって他に流すルートがあるのは明白だった。そして、それを管理している大元の組織があることも……。

 当然、そのことに気がついた国王は捕まえた者達を尋問にかけた。しかしながら、彼らは口を割らず、最後には城の牢屋で何者かに殺されてしまったのだ。

 見つかった死体は十二体。あの神父の遺体だけはどこにも見つからなかったので、国王側は神父が全員を殺し、逃げたと見ているようだった。

 その連絡がヴァレッドの入ったのが数日前。丁度、視察の行き先を決めなければならないと思っていた時期だった。

「それで、視察はやはり北東の方にするんです? それなら情報を集めるのを急がせますが……」

「いや、視察は南方へ行く。北東の方は情報が集まり次第、俺とジルベール隊で向かうことにする」

「はぁ」

 まるで納得がいってないかのようにレオポールが気の抜けた返事をする。そして、少しだけ考えた後に怪訝な声を出した。

「え、それって視察を二度するということですか? 私としては仕事を前倒しで処理していただけるのなら、何も問題はありませんが……。でも、なぜ?」

 今までにヴァレッドがそんな提案をしたことなど無い。レオポールが首を傾げていると、ヴァレッドは書類に何か書き込みながら視線だけを彼によこした。

「今回の視察はティアナも連れて行くからな。向かう所があまり危険な場所だとしんぱ……、足手まといになるだろう?」

「言い直しましたね」

「うるさい」

 レオポールはヴァレッドの怪訝な声を聞きながら、にっこりと微笑んだ。

「つまり、視察は関係なく、ティアナ様との新婚旅行を楽しみたい、ということでよろしいでしょうか?」

「よろしくないっ!」

 耳の端を赤くしてヴァレッドはそう凄む。そして、まるで話を逸らすかのように、早口でまくし立てた。

「そんなことより、あっち方の選定はどうなったんだ。視察までもう幾ばくもないぞ」

「あぁ、それでしたら先日面接をして、採用しましたよ。ヴァレッド様の勧め通りに、ジルベールさんところの双子にしました。合流は新婚旅行ハネムーンの前日か、当日になる予定です」

 ヴァレッドはその台詞に「視察だっ!」と声を荒げた。

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