004 First Reverse

「ええ、『混沌の渦に呑まれし語り部よ』

『我の言の葉によりて、ここに調律を開始せし…』」

「姉御、危ないっ‼」

れいなの調律の途中、シェインが叫ぶ。

「え?」

れいなが後ろを振り返ると、そこには片手剣を振り下ろすステイの姿があって…。

キンッ。

僕は思わず目を閉じてしまう。そして聞こえる、金属がはじかれる音。

「はは、まさか、ここにきて、俺の人を見る目さえも鈍っていたということか…。なぁ、ステイ‼」

目を開けると、そこには、差していた片手剣を構えているステイとすでに臨戦態勢となっているサヴァンとラーラがいた。

「…。」

「え⁉じゃあ、カオステラーは…。」

「ああ、イストスではなく、ステイだったということだ。」

「ええ、そうゆうことです。見事に騙されていましたね、皆さん。」

「その声は…ロキ‼」

「調律の巫女御一行の皆さん、お久しぶりです。お元気そうで何よりです。」

「今日こそ、貴男を倒すわ!」

「おお、怖い、怖い。ですが…私のところまでたどり着けますかな?」

ロキと僕らの間と、サヴァンとステイを囲うように‘ぬいぐるみ’が現れた。

「さて、私たちは奥の秘密の部屋でお待ちしていますよ…。」

ロキとステイは奥に消えていく。

「待ちなさい、ロキ‼」

「キュー…!」

『ぬいぐるみ』がまるで川のように僕らを襲う。

「サヴァンさん、ラーラ‼」

僕たちはサヴァンさんたちと離れ離れになってしまった。

「くそっ、離れ離れになっちまった。」

「こっちは、無事だ!後で落ち合おう!」

遠くのほうからサヴァンさんの声がする。

「キュー…」

『ぬいぐるみ』たちは様子を窺うように、僕を囲んでいる。

「合流してロキのとこへ行きたいなら、倒せってことか…。」

「行くわよっ、そして今度こそ、ロキを倒すのよっ!」

「いこう‼」

………

……

「くらえっ」

「キュー…」

「くそっ、いくら倒してもきりがねえ。」

「このままでは押し切られてしまいます!」

「誰か…助けて…。」

倒しても、倒しても濁流のように押し寄せてくる‘ぬいぐるみ’を前に手も足も出ない。ふと、このまま、ここで力尽きるのではないか、という絶望的な考えが浮かんだその時…。

「お前ら、よく頑張ったな。」

後ろに突然、サヴァンさんが現れた。

「!?」

「ど、どうしてサヴァンさんが…!?」

「話はあとだ。口を閉じろ。舌をかむぞ。よしっ、ラーラ、頼む!」

一瞬にして目の前が真っ白になり、思わず目を閉じた。そして、目を開けてみると…。

「あれっ、『ぬいぐるみ』たちは…?」

周囲を見ても、『ぬいぐるみ』は一匹もいない。

「ここまで来れば大丈夫だ。」

「えっ、どういうこと!?」

「ラーラに転送してもらったのさ。」

「サヴァン様、もうこんな無茶はしないでください。」

ラーラは少し怒ったように言う。

「はわわ、すごーい…。」

「本当に転送を…しかも五人同時にできるなんて…。体に異変はないですか?ラーラさん。」

「はい。少し疲れましたが、大丈夫です。」

ラーラは少し、顔色が悪そうだが、れいなの回復呪文で、顔色がよくなった。

「よし、じゃあ、あいつらがいる秘密の部屋とやらへ行くか。」

秘密の部屋―『カオステラー』化したラーラがいた部屋までの道のりは恐ろしいほどに静かだった。

「『ぬいぐるみ』が一匹もいないなんて、気味が悪いな…」

「嵐の前の静けさというやつでしょうか…。」

僕ら迷宮のような神殿の中を歩く。

不意にラーラが言った。

「…つきました。ここです。」

「よしっドアを開けるぞ…。」

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