「後編」誰かがそう言った




「ふあぁっ……」

 午後五時四十八分、夕方の教室に女の子あくびの音が響いた。

「おはようまいこ!」

「……ん、みっちゃん」

 セーラー服姿の黒髪のポニーテールの女の子がまいこで、同じくセーラー服姿のショートカットの茶髪の女の子がみっちゃんだ。

「ああ、私寝てたんだ。ごめんね、勉強中だったのに」

 まいこの机の向かい側にもう一つの机があり、そこに座っているみっちゃんに

 まいこが寝起きでぼんやりと謝罪した。

「いやいやいやいいよ! 私も寝てたし、それに」

 そして一旦言葉を切る

「いいもの見られたしねー!」

 みっちゃんはにこにこと笑みを浮かべそういった。

「いいもの……?」

 まだ意識が明瞭になっていない頭を動かし、まいこはしばし考え答える。

「……ん、寝顔?」

「ぴんぽんぴんぽんぴんぽーん! 大当たりぃ!

 それじゃあ正解者の方にはこれでーす!」

 みっちゃんがかなりのハイテンションでそう言った。

 そしてポケットからハンカチを取り出し、ぼんやりとしているまいこの口にあてて、よだれを拭きとった。

「きれいな顔が台無しだよ、お姫様!」

 ポケットにハンカチをしまいながら、優しく微笑んだ。

「っ……! ちょ、それぐらい自分でできるよ」

 まいこは少し恥ずかしそうに言ったあと

「でも、ありがとう」

 そう礼を返す。

「え? まいこどうしたの? つっこまないの? 今すっごくボケたんだよ?私」

 みっちゃんは驚いた顔でそう言った。

 そんな顔は見ていないまいこは何かに気がついた様子で、

「え? ……見える! わかる!」

 と、早口でまくしたてる。

「…………」

 しばし黙りこむと、

「まいこは銀色の甲冑をきていた」

 突拍子もなくそう言った。

「…………」

 なにもおこらない、そして

「戻ってきたんだ私」

 そうぼそっと言うと、

「どうみっちゃん。私何も説明も、描写もしてないけれど、見える? 今手を振ってるんだけれど」

 早口で、すごく真剣そうに手を全力で振りながらみっちゃんに問う。

「見えてるよー、ねえ急にどうしたの? 大丈夫!? 起きてる!?」

 やや心配そうな声で答えた。

 それが耳に入っていないかのようにまいこは、

「なんだ夢だったんだ……よかった」

 安心した顔で言った。

 そしてみっちゃんは、首をかしげる。

「夢?」

「うんそう、ひどい夢なんだよ。なんでも、まいこは何々した~とかいう描写を言わないとろくに動くこともできない、めんどくさい夢でね」

 まいこはさっき見た不思議な夢の話をした。


 それを聞いたみっちゃんは、

「あ、まいこが起きる15分ぐらい前に起きたけど。私が寝てたときにその似たような夢をみたよ!」

 と嬉しそうに言った

「え?」

「へ?」

 二人して首をかしげた。

「なにそれこわい」

 まいこが実直な感想を漏らす。

「あ! どこかで見たことがあるよ! 仲の良い人同士とか、兄弟、家族同士で同じ夢を見る不思議なことが実際にあるんだってー! 私達超仲いいし、なにかイメージの共有でもしてたんじゃないかなぁ?」

 みっちゃんが知ってる素振りで言った。

「イメージの共有、か、それってつまり」

 まいこが言った。

 次に、

「「心が通じあってる証拠?」」

 まいことみっちゃんが同時に同じことを言った。

 そして顔を見合わせ、

「「ぷっ……ははっははは……!!」」

 まいことみっちゃんが同時に笑い出した。

「ふっふへへへ!! 不思議なこともあるんだね!」

 みっちゃんが嬉しそうに笑顔でそう言った。

「ふ……ふふ、そうだね、ふふ」

 それにまいこがにこやかに返事をした。あとに、

「なんだろ、寝ぼけてるのかな…あははは」

 みっちゃんの、

「あー! 時間やばいよ!」

 という声で、まいこが時計を見ると、時計の針が2つとも一番下に重なっていた。

「六時三十分か。門が閉まる前に帰ろう」

 まいこが言って、二人とも帰る準備をし始めた


 そして教室の外のすっかり暗くなってしまった廊下を、みっちゃんとまいこは話しながら歩く

「結局勉強できなかったじゃん!」

「そうだね、でも試験は月曜日からだからまだ日はあるよ」

「おお! じゃあ明日は土曜日だし、今日はまいこの家に泊まろうかなー、徹夜で勉強会、どう!?」

「いいよ」

「それじゃ決定! 今日はお勉強会だー! お菓子いっぱい買っていくぞ!」

「……太るよみっちゃん」

 そんなことを言い合いながら、みっちゃんとまいこは階段を下って行った。






********************************





「ふあぁっ……」

 午後五時四十八分、夕方の教室に女の子あくびの音が響いた。

「おはようまいこ!」

「……ん、みっちゃん」

 セーラー服姿の黒髪のポニーテールの女の子がまいこで、同じくセーラー服姿のショートカットの茶髪の女の子がみっちゃんだ。

「ああ、私寝てたんだ。ごめんね、勉強中だったのに」

 まいこの机の向かい側にもう一つの机があり、そこに座っているみっちゃんに、まいこが寝起きでぼんやりと謝罪した。

「いやいやいやいいよ! 私も寝てたし、それに」

 そして一旦言葉を切る

「いいもの見られたしねー!」

 みっちゃんはにこにこと笑みを浮かべそういった。

「…寝顔でしょ」

 まだ意識が明瞭になっていない頭だが、まいこは一瞬で答えを言った。

「すごぉお! 一発で当てたね! それじゃあ正解者の方にはこれでーす!」

 みっちゃんがかなりのハイテンションでそう言い、ポケットからハンカチを取り出し、ぼんやりとしているまいこの口にあてようとしたが、手遅れだった。

 まいこは自分の水色のハンカチで口を拭いていたのだ。

「?」

きょとんとしてるみっちゃんにまいこは、

「もしかしてだけど、『きれいな顔が台無しだよ、お姫様』って言おうとした?」

 と微笑みながら言い、さらにきょとんとするみっちゃんを尻目に、ポケットにハンカチをしまう。

 それから、すぐにはっとして、

「…何これ、正夢?」

 いつものように冷静に言ったあと、

「…怖っ」

 そうひとりごちた。

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