救世主の二重奏:太陽の笑顔
年が明けた。天気予報によると例年よりも肌寒く、寒さはまだまだこの先続くそうだ。
一月初旬。始業式が始まった。
始業式も、雪が降っていたので、終業式は体育館で全校生徒で行われた。
小太りの校長の長い長い長い話が今年も繰り広げられる。
周りを見渡すと伊藤さんが目に入った。
相変わらず無表情だった。相変わらず何を考えているのかわからない女だ。
体育館用の靴は履いていない。俺は寝坊して遅刻してきたので知らないが、誰かに何かされたのだろう。
俺のせいではない。だから、余計な罪悪感は抱かなくて済む。
そして、終業式は昼前に滞りなく終了し教室。
今日の担任の話は適当な話ではなかった。
明日からついに彼女が復活するのだと言う。
彼女、ショートカットの茶髪を持つ"伊東未来"だ。
俺はそこまで関わりがなかったのだが、一年の頃みっちゃんと呼ばれ皆の癒やしとして親しまれていた可愛い女の子だそうだ。
そんな彼女が明日からクラスに復帰するという。
なので、みんなはあたたかく出迎えてほしいとのことだった。
お安いご用。このクラスは、団結力がすさまじいからな。問題ないだろう。
そして、そのあとに担任のいつもの適当な話が終わり、解散された。
今日の日直は俺だ。担任は俺に鍵を手渡した。
担任は忙しそうに教室から出て行った。
クラス内は、終業式と同じく、教室から去る者、残って友達と話す者、様々だった。
廊下もまた騒がしい。いつもの風景だ。
そんな中、伊藤さんは帰ろうと通学かばんを持ち出口へと向かう。
途中途中で、女子共にわざとぶつかられたり、制服にガムを吐きつけられたりしていた。
新年早々教育を受ける彼女は、今年も淡々と無表情だった。
それでも尚何も語らず、それでも尚何を考えているかわからなかった。
本当に気持ち悪い。本当に不気味な奴だ。
ここまでされて心が折れないなんてな。どう考えても気が狂ってるぜ。
いや、むしろ気が狂ったからここまで耐えたのか。なるほど、それなら合点がいく。
次の日、
「はい、昨日話していた通り、今日からクラスに復帰するクラスメイトを紹介する」
担任の後ろからひょこひょこと歩き入ってきたのは、茶髪のショートカットの小柄な女の子だった。
顔を見た第一印象から彼女は、果てしなく元気で怒りも悲しみも知らない無垢で純粋で無邪気なイメージだった。
柔らかそうな肌に、穢れを知らない茶色の瞳。思わずこっちまで笑顔になってしまうようなニコニコとしたパーフェクトな笑顔を浮かべた元気そうな可愛い顔を、ぱっつんといわれる前髪が幼さを際立たせる。
「あー、無事退院しました! 伊東未来です! あーえー、三度の飯より食べることが大好きです! このクラスはあとちょっとですけど、よかったらよろしくしてください」
伊東さんは太陽のような眩しい笑みを浮かべ、元気そうに名乗り終わると、せわしなくお辞儀した。
そして、教室にはたくさんの拍手の音が立ち込めた。
「みっちゃーん!」
「会いたかったぜ!」
「みんな心配してたんだぜ」
「おかえり」
「おかえりー!!」
そんな拍手歓声の一つ一つに笑顔で手を振って答える伊東さん。
「席は一番前だ。座ってくれ」
担任は、教室の前扉側にある伊藤さんの前の席を指さす。
「噂の転入生さん? よろしくねー!」
座るときに笑顔とともに、元気な声で伊東さんは伊藤さんに軽くあいさつをした。
周りはそれを見て笑っていた。ただし笑っているのは目だけだ。
クラスは人間に向けるべき目ではない目で伊藤さんを見て笑っていた。
そこに心など微塵もないようだった。そこに心など微塵もこもってはいなかった。
「よーし、じゃあ今から朝礼を始める」
そして、今年も学校が始まった。
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