拒絶彼女の拒否反応:後編

 …携帯が鳴った。


 画面に映し出されているのは、拒絶の言葉だった。

 スマートフォンを上下にひっくり返して見てみたが、画面はそれにあわせてわざわざ回転する。

 どうしても僕に読ませたいようだった。

 こうやってどうひっくりかえしても、どう見ても、拒絶の言葉だった。

 やはり違いなく、間違いようもなく、どうしようもなく、拒絶の言葉だった。

 目に飛び込んできたのは、紛れもなく、紛うことなき、拒絶の言葉だった。



 僕はすかさず、アプリを開き、返事を返す。

 メールのようにラグがないので、気軽に話が進めやすいということで、人気になったツールだ。

 今は携帯のキャリアメールに変わる新たなコミュニケーションツールとしてスマートフォン全盛期の現代に台頭している。

 このツールは、おそらく国民の半数以上が使っているので、もはや人々の生活になくてはならないものになっていると言っても、過言ではない。

 このアプリの、メールでいうメールアドレスに当たる部分は、連絡IDという任意のアルファベットである。

 ユーザー登録の際に決められて、この連絡IDをアプリのユーザー検索にかけ、メッセージを送信しあう。

 左端に見える彼女の、可愛らしい犬のアイコンから、背景が白の丸い吹き出しのようなデザインのものがでている。

 そこには、僕のような生粋の日本人には、馴染み深い言語ぶっちぎりナンバーワンである、日本語で、「私はあなたが嫌い」と黒い文字で書いてある。

 その右横の21:42というのはこれを書いた時間で、このコメントは彼女が書いたものだ。

 その上には右端に、同じようなデザインの、背景色が黄緑色の吹き出しに黒い文字で、

「あなたが好きです」21:41と書いてある、これは僕が書いたものだ。

 吹き出しの外側のすぐ左には既読の二文字。

 上にスクロールしていくと、この吹き出しのセットが、いくつもいくつも上に積み重なっている。

 スクロールしていても認識できるほど、黄緑色の比率が圧倒的に多い。割合的には0.1:9.9といったところか。

 つまりは僕が一方的に送りすぎているのだ。

 僕は彼女の拒絶の言葉に返事をする。


「I Love You. (私はあなたが好きです)」

 黄緑色の吹き出しが、またひとつ画面に表示される。

 直後、何も表示されていなかった、「I Love You. (私はあなたが好きです)」の左側に、既読の二文字が現れた。

 ややあって、返事がきた。

「I really don't like you. (私はあなたが嫌いです)」

 …丁寧に訳までつけて英語で返してきやがった。

 僕はめげずに返事を打ち込む。

「I'm in love with you. (私はあなたに夢中です)」

 我ながら、気色悪いとは思うが、まぁいい、これでいけ。

 またすぐさま左に、既読が現れた。

 そして、

「I really hate you (私は本当にあなたが嫌いです)」

 くそ、だめだ。英語で攻めても、拒絶の言葉を投げかけてきやがる。

 どうあがいても拒絶だ!おかしい、これだとまるで僕が振られているみたいじゃないか!!

 くそっくそっ…なぜだ…?

 なぜだ、なぜだ、なぜだ、なぜだ、なぜだ、なぜなんだ?

 おかしい、この期に及んでまだ照れ隠しか…?

 この期に及んでまだ彼女は、強がっているというのか?

 信じられない。考えられない。

 ふぅ、一度、深く深く息を吸い、深く深く息を吐く。

 冷静になれ、冷静に周りを見て、彼女の気持ちを読むんだ。

 僕はスマートフォンの画面を見つめ、しばし考えた。


「もう十分だ! もう照れ隠しはやめよう!

僕は君が好きなんだ! 愛している!

僕は、僕が君以外のすべてにどう思われようが関係ないよ!

君のことが好きだ! 君のことが大好きだ!

君のことを愛している! そうだ結婚しよう!

僕は公務員を目指しているから、収入は安定することまちがいなしさ!

だからきっと、君を幸せにできる! いや、幸せにしてみせる!

この世でこんなに君のことを愛しているのは僕だけだ!!

そして、君を幸せにできるのも、こんなにだれよりもだれよりも君を愛している僕だけだ!

だから結婚しよう!! そうだ、子供は何人つくろうか?

僕は二人ほしいな、兄と妹! きっと楽しい家族になるよ!!

ほら、僕はこんな先のことまで考えているんだ!

だから、だからだからだから! だから!!

照れ隠しで拒絶したふりしなくてもいいんだよ!

君はもう、強がらなくていいんだよ!

素直になって! ほら! ほらほらほらほら!!」


 素直な感情を、本音を、純情を、その一切合切を全力で縦長の黄緑色の吹き出しにしてなげかけた。

 そしてすぐに既読はついた。そして、突然画面に電話のアイコンが浮かび上がる。

 アプリを通して電話がかかってきたのだ。

 彼女からだ、声がききたくなったか? と思いながら、僕はすかさずとる。

「ごめんなさい。気持ちは嬉しいのですが。私は本当にあなたのことをなんとも思っていません。なので、どうかもう、やめてください。」


 僕がもしもしと言う前に、彼女の言葉がたくさん、僕の耳に流れこんできた。

 至極単純で痛烈な拒絶だった。

 ああ、そうか、この人は僕のことを振ったんだ。

 嫌いなんだな。僕のこと。僕のことが嫌いなんだ。

 ふふ、あははは、ふはは…はははは…

 そして、動揺し、何も言えない僕を置き去りに電話は途切れた。


 次の日は、土曜日だった。学校は休みだった。

 午前十時、僕は彼女の家の前にいた。

 青い屋根に白い壁の乗用車が一台止められる、駐車場付きの二階建ての住宅だ。

 その手前の少し左にある、電信柱に隠れ、彼女がでてくるのを待つのだ。

 僕は、黒のTシャツに、青いジーパン。背には、黒いリュックサックだ。

 彼女の家は両親共働きだ。

 土曜日は、毎週恒例、彼女は駅前の薬局で生活用品を買うため、確実に毎週、この時間に彼女は、出てくる。

 なんと言っても、僕は彼女を一年間見守ってきたので、ほぼ確実だ。

 がちゃという扉をあける音がしたあと、彼女がでてきた。

 ビンゴ。僕は自分で笑みを浮かべたのが分かった。背負っていたリュックサックのファスナーを開ける。

 そして、中に入っていた四十センチメートルほどの木箱を取り出す。

 さらに、手早くその木箱の中にあった物を取り出す。

 取り出した物の刃で自分を傷つけないように、右手でその柄を持つ。

 鍵を閉めた彼女は、歩き出すための一歩を踏み出す。

 僕は、空の木箱だけ入った、リュックサックを、ファスナーも閉めずに後ろに放り捨て、彼女に走って近づいた。

「――――!!!」

 僕に気づいて向かい合い、彼女が何か言っている。

 しかし、僕には聞こえない。僕には何も聞こえない。

 そして僕は近づく。近づいて近づいて近づく。

 近づいて、手に持っているものが彼女に刺さらないように、刃を上にむけつつ、両手で彼女の顔をがっしり掴んだ。

 その掴んだ顔を強引に僕のほうへ、ゆるやかに近づけ、彼女の唇と僕の唇がゆっくり重なった。

 そして、唇を重ねたまま、彼女を、そのまま彼女の自宅の扉に押し付け、

 僕は彼女の、背中を壁と密着させた。

 ようやく念願叶い、彼女の唇を奪えた。

 夢のようだった。そして初めての感触だった。

 彼女の唇は、驚くほど柔らかかった。

 ぷるぷると水々しく、甘い甘い柔らかさだった。

 これほどまでにやわらかいものを、僕は初めて口にした。

 僕はちろちろと舌を動かし、彼女を唇を、口内をこれでもかと舐めまわした。

 暖かかった、とても暖かかった。それでいてなぜか安心した。

 人肌というものはこんなにも安心できるものなのか。僕はひどく驚いた。

 人肌というものはこんなにも幸福で、まるで天国だ。僕はひどく驚いた。

 彼女はうめき声を上げているが、そんなものはこの唇の前では蚊の飛ぶ音に等しい。

 僕が上機嫌で、彼女の口内を蹂躙するのを楽しんでいた。

 掴んでいた僕の力が少し緩んだのだろうか、彼女は必死に抵抗しだした。

 そして、左膝から痛みが走り、力が一瞬抜けた。クソッ、僕の左膝を蹴ったのか。

 唇の悪魔の虜になり、油断しきっていた僕はそのまま、彼女に突き飛ばされ尻もちをついた。

 僕が後ろに尻もちをつき、彼女から離れたことで、彼女は自由になった。

 彼女はすぐさま自宅の扉を開けようと、何度も何度も扉を引いているが、がちゃがちゃという音が鳴り響くだけで、一向に開かない。

 なぜならば、鍵が閉まっているからだ。

 鍵を閉めたのが災いしたのだ。

 彼女は涙をこぼし、こちらを向き、腰を抜かしてへたりこむと、徐々に後ずさる。

 スカートからすこしかわいい水色のパンツが見えている。

 彼女は水色が好きなのだろうか?

 ベランダに二、三枚の水色のパンツが干してあることがよくある。

 ベランダに干してあった、僕がおいしそうにみていたあのパンツを、今、目の前で。彼女がはいている。

 最高だ、夢のようだ。今日はいい日だ。

 最高だ、夢のようだ。僕はしあわせだ。

 そして、彼女の徐々に後ずさるパンツを見ていると、すぐに止まった。

 彼女の体が扉にぶつかって止まったのだ。

 残念。恨むなら扉を恨むことだ。

 彼女は僕を拒否した。拒絶した。

 僕はこんなにも彼女を愛しているというのに。

 おかしいなあ。おかしいなあ。おかしいなあ。おかしいなあ。

 ひどいよね、ひどいよねひどいよねひどいよねひどいよねひどいよね。

 一年間も、一年間も見守ってあげていたというのに。

 僕は一年間も彼女を見守っていたというのに。


 そして、僕はゆっくりと立ち上がる。右手にはちゃんと、リュックサックから取り出したものを持っている。

 近づくため、彼女のほうを見ると、ひどく震えていた。かわいい。

 僕はゆっくりと彼女に近づく。顔を涙で濡らした彼女と目があった。かわいい。

 僕は彼女の前に立ち、ゆっくりとしゃがむと、文字通り、目と鼻の先に彼女が現れる。

 目があい、鼻同士がぶつかった。

 僕は少しだけ顔を傾け、目を見開いて硬直する彼女と目を合わせながら、再び唇を奪った。

 長い長いキスだった。相変わらず柔らかい、いい唇だ。

 そして僕は、舌を彼女の人肌の優しさを満載した口内に侵入させる。

 すると、彼女がいっそう大きく目を見開き、僕の舌に噛み付いた。

 ささやかな抵抗だった。

 僕は悲鳴をあげながら、すぐ彼女から離れのたうちまわる。

 鈍い痛みが走る。舌が焼けるようだ。口は鉄の味がする。痛い。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い


 そして気がついたら、手が血に染まっていた。


 本来、血色のいい肌色であるはずの、僕の右手が真っ赤な血に染まっていた。

 ふと、前で微かに音がした。

 顔を上げ、前をみると、彼女の左胸部に包丁が、深々と突き刺さっているではないか。

 彼女は涙にまみれた焦点の定まらない目を見開き、

「ぁ…ぁあ…」と、

 声にならない声をもらし、座りながらガクガクと震えて、ときおり、口から血を吹きだしていた。すごく痛そうだった。

 僕は彼女が本当に本当に痛そうだったので、何もせずにじっと見つめた。


 しばらく見ていると、またがくがくと小刻みに震え、力なく倒れた。

 彼女の身体がびくびくと痙攣しているのをしばし眺めた。

 しばらくして傷口から大きく血を吹き出し、彼女の震えが止まった。


 そうしてもう二度と、彼女は動かなくなった。


 僕が彼女に駆け寄ったときに、リュックサックに入っていた木箱から包丁を取り出していたのは前述のとおりだ。

 それを右手で持ち、彼女に走っていった。

 当然彼女は叫ぶし怯える。当然だ。

 でも、怯える彼女もすごく可愛い。最高だ。

 いや、正しくは、怯える彼女はすごく可愛かった。最高だった。

 だがそんなものは過去のことだ。もうどうでもいい。

 結果的に、彼女は僕が殺してしまった。


 でも僕は言う。僕は悪くない。僕は拒絶された被害者だ。


 だから僕は悪くない。僕の一年間は一体なんだったのだ?

 嫌いだからと言って僕の見守り続けた一年間を、拒絶して、なかったことにしていいわけがあるか?

 いいや、ない。一年間という莫大な時間を拒絶していいわけがない。

 だから殺した。僕は悪くない。

 拒否された。拒絶された。排斥された。撥ねつけられた。

 つまり、彼女は暗に、僕自身という存在を認めないと行動で示したのだ。

 それにより、僕の心は壊されそうになった。

 それにより、僕自身が消されそうになった。

 正当防衛だ。どう考えても、これは正当防衛だ。

 正当防衛は、この国の法律で認められている。

 つまりは僕は悪くない。悪いのは僕を消そうとした彼女だ。

 彼女など、死んで当然の悪魔だ。人でなしだ。外道だ。

 彼女など、殺されて当然の女だ。極重悪人だ。狂人だ。

 そんな人ならざる彼女を、僕は正当防衛で殺した。

 だから何だ? 何が悪い? 何がおかしい?

 どこまでも僕は悪くなんていない。悪くなんていないのだ。

 僕はそれから、家に帰った。当然包丁は彼女の左胸においてきた。

 持って帰ると人目につく、何より、引き抜くと彼女がまた動き出し、僕の心を壊しにかかる恐れがあるからだ。


 僕は、誰に気取られることもなく、帰路についた。

 そして、家に帰りお風呂へ直行、不快で赤い、汚れた血を洗い流し、身を清めるためだ。

 そして、体を拭き、部屋にかえると、中学のころまでやっていたブログに久しぶりにログインした。

 そして、僕は今までのことを書いた。僕はこれまでのことを書いた。


 なぜなら、これを読んでいる人に、このブログを読んでいる人に、僕の正当性を、身の潔白を、訴えたかったからだ。

 きっと、すぐに僕は警察に捕まるのだろう。

 当然人を殺したからそうはなる。不本意だが仕方ない。

 捕まるのは、今日か、明日か、それとも、今すぐか。

 いつかわからないがどこへ逃げても確実に捕まるし、何より、強大な国家権力と、それに連なる理不尽な暴力から逃げ切れる頭も、資金力も、当てもなにもない。

 僕の両親も、この腐った世界に生きる者なので僕の言うことを信用し、聞いてくれる可能性も低い。

 なのでここに記す。僕は悪くない。僕が無罪であることを。

 僕が彼女を殺めてしまったのは、正当防衛であることを。

 このブログに記す。僕が生きた証を記すのだ。

 そして、これから僕は殺される。

 僕はこの先ずっと檻の中など嫌だ。

 僕は一度、人間性を拒絶され、蔑まれた汚れた人間だ。

 世界も僕をこれから批判するのだろう。だから僕はこの世界と決別する。

 僕はまともな人間だ。僕を認めない人間が存在するこの世界なんていらない。

 だから僕は、殺される。この世界と、そして悪逆な人間共にだ。

 そして、これから殺される。この世界と、そして理不尽な人間共にだ。

 僕を殺すのは、無罪である僕を決して許さない残酷なこの世界。

 そして、僕のすべてを否定し、消そうとした彼女自身だ。




**********************






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る