第1章:拒絶彼女の拒否反応
拒絶彼女の拒否反応:前編
…携帯が鳴った。
テレビのCMやコンビニエンスストアなどでよく耳にする、はやりの曲の着信音が僕の静かな部屋に鳴り響いた。
僕はごくりと一度唾を飲む。そして深呼吸。深呼吸。二回した。
そしてそっと、目をつむる。目をつむりながら目をつむる感覚で、目をつむる。
ややあって、目を開く。そして、ようやく、スマートフォンの画面を見た。
「私はあなたが嫌い」
画面に映し出されているのは、拒絶の言葉だった。
スマートフォンを上下にひっくり返して見てみたが、画面はそれにあわせてわざわざ回転する。
どうしても僕に読ませたいようだった。
こうやってどうひっくりかえしても、どう見ても、拒絶の言葉だった。
やはり違いなく、間違いようもなく、どうしようもなく、拒絶の言葉だった。
目に飛び込んできたのは、紛れもなく、紛うことなき、拒絶の言葉だった。
この拒絶の言葉の主は、一人の、黒髪のロングヘアーの女の子だ。
黒髪のロングヘアーに、すらっとした高身長、鼻筋がとおり、整った、可愛いというよりは、美人な顔立ちをしている。
世の中のカテゴライズすると、"モデルのような"女の子だ。
彼女は、僕と同じく高校三年生で、同じ学校の同じクラスの女の子だ。
男子からはその美貌で人気の女の子だ。
この学校の男子なら、誰もが彼女を自分のものにしたいと思っていることだろう。
手をつなぎたいと、唇を奪いたいと、熱い心を胸に恋い焦がれていることだろう。
当たっているか? びっくりしたか? 図星か?
そしてズバリ当ててやろう。今驚き竦み、言葉も出ないだろう! そうだろう!
ふふん。なぜわかったか? それは、何を隠そうかくいう僕もその一人だからだ。
彼女に、彼氏がいないという情報を、男子たちのネットワークで仕入れたのは、高校二年の秋頃だ。
今は高校三年目の秋なのでちょうど一年前の今頃だ。
高校二年の前以降に、彼女に彼氏がいたかはわからないし、そんな過去のことはさして問題ではない。
問題なのは、大切なのは、それからずっと、今現在、"彼女に彼氏はいない"という、まぎれもない事実だ。
一年前の秋ごろから、今日まで一年間、僕は彼女をつけ回した。
…今ストーカーと思った人がいるだろうが、それは違う。濡れ衣だ。
つけ回すと言っても、週に六回、週六だ。毎日ではない。語弊がある。
つけ回すと言っても、下校時に、彼女の後ろをこそこそ見つからないようについていくだけだ。誤解だ。
ふう、僕が無害だということを証明したところで、僕がなぜ彼女の連絡先を知っているか、という話に入る。
時は二日前の夕刻。僕は放課後、そこそこ仲のいい彼女の幼なじみの友人(当然のように男子)に、飯の約束をとりつけ駅近くのファミリーレストランにきていた。
そして上手く口車に乗せ、彼の飯代を僕が出すという契約を結び、難なく、彼女の連絡先である、後述する、スマートフォンのアプリの連絡IDを入手した。
くそ、最初からこうすればよかった。
今までの僕は、彼女の連絡IDを友達に教えてもらうと土下座までしたり、彼女のSNSのつぶやきを監視(今はなぜか鍵がかかっていて読めない)して、どうにか連絡IDをつかもうと、多大な労力を対やした。
だがそれらの虚しき日々も終わる。僕は、報われるのだ。
僕はとうとう至高の宝である、彼女の連絡IDを手に入れたのだ。
彼女の連絡IDを持っている男子は少ない。
僕は大きなアドバンテージを得た。
彼女を手に入れたも同然だ。僕はガッツポーズをしながら友人と別れた。
その直後、僕は彼女に自己紹介。どうやら彼女は僕の名前を知っていたようだ。
(同じクラスだから割りと当然であるが、舞い上がる僕は気づかない)
なぜ知っている? まさか彼女は、実は僕のことが好きで…―
「むふふ、これはいける!!! ハッハッハッ無様な男子共よ。貴様らの憧れの女が、貴様らが恋焦がれる高嶺の花が、我だけのものになる光景を指をくわえてみているがいい!! ハッハッハッハッ!! ハーッハッハッハッハッ!!」
僕はRPGの魔王ばりに高笑いした。もちろん、心のなかでだ。
この考えが大間違いの馬鹿野郎だったと、知ることになるのは、それから二日後のことなので、二日前の僕には知るよしもないだろう。ふっははは…はぁ…
彼女の連絡IDを手に入れてから、二日間、舞い上がり暴走する僕は彼女にそれはもうたくさんのことを言った。
この"言う"は現実の"言う"ではなく、ネットで"伝える"の意味だ。
念のため、なんとなく、僕は付け足した。
そして、改めて、舞い上がる僕は、愛犬の写真だの、授業で思ったことだの、自分の中学校時代の話だの、今日僕は何食べただの、という、くそくだらない能書きを延々と送り続けた。
そうして、好感度を稼いだあと、僕はその女の子に告白をした。
僕の告白方法は、自己評価をすると単純明快かつ聡明で、完璧な方法だ。
放課後、想い人の時間をとり、わざわざ校舎裏に呼び出し、緊張を胸に抱きながらドキドキと告白する前時代のものではない。
とった方法は、シンプルに現代風に、スマートフォンという文明の利器を使う、新時代の方法だ。
スマートフォンで、彼女の連絡IDを通し、思いを告げる。
これならドキドキして、みっともなく、噛んだり、声を震わせたり、という、
情けない姿を彼女にさらさずにすむ。我ながらスマートだ。
何より、この二日間の僕の人間性や生活を送り続けた。
返事は「へー」とか「ふーん」、「かわいいね」、「そう」など、シンプルで、どこかそっけなさが感じられる返事が、ときたま返ってくるが、それはズバリ、照れ隠しであると僕は推理した。
一見、そっけなく見える返事はブラフ。つまり照れ隠しなのだ。
本当は僕が好きで好きでたまらなく、愛して愛して愛して愛して止まないというのに、健気なことに彼女は、それを僕に悟らせまいと、必死に隠して見せているのだ。強がっているのだ。
とんだ萌えキャラだ。二次元の女の子のような可愛さだ。あざとい、実にあざとい。なんだこの可愛い生き物。最強じゃないか。
ふふん、もはや彼女は僕の虜、僕はぐぐっとガッツポーズを、立て続けに二回した。
そして僕はスマートフォンを手に取り、彼女に思いを告げる。
恥ずかしがり屋で、照れ屋な彼女の代わりに、僕が自ら動いてエスコートするのだ。
「あなたが好きです。付き合ってください」
この数文字を、すばやく打つと、僕はそっと携帯の画面を切った。
あとは返事を待つのみ。勝者の余裕だ。
携帯の画面を切ったのは、彼女がこの時間お風呂に入っているからだ。
それはSNSのつぶやきなどで確認済み。彼女の生活サイクルは一定なのだ。
情報通を名乗れるレベルだな僕は。ふっ、それでは優雅に漫画でも読んでごろごろのんびり待つか。
そして、それから、だいたい十分後―――
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