works/1177354054880238409

『隠れ鬼外伝』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054880238409/episodes/1177354054880238424


 スピンオフの過去編というものは、確定した未来へ向けた物語であるが故に、あらゆる伏線の強度を無価値なものとする。ミステリジャンルである種の縛り、もっと言えば呪いのように機能する「伏線を張らなければならない」という固定観念は、時によりストーリーの雑味となることもある。読者がそもそも未来を知っている過去編であるからこそ、作者は初めてその呪縛から逃れることができるのだ。

 例えば三部作の三作目において、冒頭で病死が思い出話として語られるヒロインの、二作目での喜び、悲しみ、怒り、焦り、必死さに、エンディングでの笑顔を見る度に人は胸を掻き毟られるものだし、作劇上破壊されるためだけに作られたのでない幸福な日常、あるいは特別幸福でもない日常こそが、リアリティと愛着を生む。

 単独で読むに辺り必要量の設定解説、人物紹介を備えた、優良なスピンオフであるように思う。

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