弟ぶんの卒業 (X+14年3月)
「ハジメくん、いよいよ先生だね。」
「教師としてはシンマイだよ。はずかしいなあ。...って、姉キの4年前のせりふのおうむがえしなんだけどね。」
「そんなこと言ったっけ。まあ、確かにそんな気分だった。」
「学生としては、たしかにいろいろ勉強したなあ。でも、これからは、その材料を、教材に変えていかなくちゃ。」
「そういえば、遠心分離のデモ実験、わたしはまだ大学生あいてにやっただけなんだ。中学でもできるとは思うんだけど、ねらいを受け止めてもらえるかわからない。もしやってみたら、生徒の応答がどうだったか教えてね。」
「ところで、ともよちゃんは、4月からも大学の保育所に行くの?」
「うん。幼稚園だと帰りの時間が早すぎるからね。保育所からここまで歩けるようになったから、ハジメくんがいなくてもなんとかなるでしょう。」
「あたりまえだけど、赤ちゃんから4歳まで、ずいぶん大きくなったね。」
「ほんと。最初は、わたしのお乳を哺乳瓶につめて、ハジメくんに飲ませてもらったりしたよね。」
「おむつをかえたり、おまるにすわらせたり、トイレにつれてったり... なんてことばかり思い出しちゃう。」
「ハジメくんがそういうことを苦にせずやってくれて、ほんと助かった。」
「ぼくが女子トイレに行くわけにいかないから、男子トイレにつれてって、大のほうがふさがってると苦労した。」
「養育園のトイレは幼児がくることを前提に作ってあるんだけど、大学のはちがうからね。ここ数年、女性の教職員や学生をふやそうとか、バリアフリーとかで、少しは改善されてるんだけど。」
「ともよちゃんの勉強っていうほどでもないけど、絵本を読んだり、数をかぞえる遊びをしたりもした。まわりのへやの人から、うるさいって言われてなかった?」
「ともよの泣き声がうるさいことはあったけど、子どもじゃしかたがないな、と、がまんしてくれたみたい。ハジメくんの声がうるさいっていう苦情はなかったと思う。」
「ふたりめの準備は順調?」
「うん。もちろん産休はとるから、そのあいだの授業をやってもらう非常勤講師が決まって、どの題材をやってもらうかを打ち合わせてるところ。11月には復帰して、ハジメくんにやってもらったようなベビーシッターを頼んでやっていくつもり。そっちの人はまだ決まってない。だれか心当たり、いる?」
「心当たりだった人も卒業だ。」
「新年度になってからさがしてもまにあうから、心配しなくていいよ。」
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