弟ぶん (X+10年2月)
ハジメは高丘養育園で岬の弟ぶんだった。
高丘養育園の「弟ぶん」「妹ぶん」には特別な意味がある。子どもひとりひとりを見て教育的配慮をするので一様ではないのだが、だいたい小学校5-6年生に、10才ほど年下の1-2才児のせわをする経験をさせるのだ。
岬は、5-6年生のとき、ハジメのせわをしたのだった。
ハジメも「妹ぶん」を割り当てられたのだが、その子は幼児のうちに養育園を離れることになって、ハジメとのつきあいは続いていない。
岬は高校を卒業したあともときどき養育園に顔を出したので、その影響を受けて、ハジメは理科を勉強しようと思った。そして理科を教える学校の先生になりたいと思って、N教育大学を志望し、教員をめざす人向けの奨学金(かつて岬があきらめたもの)をもらえることになった。
岬が、養育園に里帰りしてきた。
「姉キ、とうとうママになったんだね。」
「年末に生まれたんだ。名まえは、ともよ。女の子だよ。」
「ともよちゃん、こんにちは。」
「わたし、なんと、ハジメくんが行きたいと思っている大学の先生になることになったんだよ。4月からだから、ハジメくんの入学試験には関係しないけどね。」
「島村先生の物理の授業、期待してるよ。」
「教師としてはシンマイだよ。はずかしいなあ。
ところで、えんぎでもないけど、もし教育大に行けなかったらどうする?」
「短大保育科の仮合格もらってる。養育園がパートタイム職員にしてくれるから、ここからかよえる。」
「ハジメくんは、小さい子のせわをするのを、苦にしないんだね。それはありがたいな。わたしが仕事をしているあいだ、この子は、保育所にあずけるんだけど、時間が合わなくてベビーシッターが必要なこともありそうなんだ。ハジメくん、教育大に合格したら、アルバイトとして、この子のめんどうを見てくれないかな。」
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