県庁にて (X+1年3月)
岬のN大学入学手続きのあと、N県庁にて。
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「4月から勤務予定の島村茂です。このたび、結婚して、扶養家族ができますので、お知らせにまいりました。住宅は単身で申しこんであるのですが、変更できますでしょうか。」
「島村さん、ね。住宅の広さはじゅうぶんありますよ。奥さんは、主婦になるのかな?」
「いいえ、大学生になります。N大学です。」
「島村さんの勤務地はS町だから、そこに住んだらN大学には通えないよ。片道4時間かかるよ。」
「ええっ、寮の申しこみしなくちゃ。さっき、希望なしで出しちゃったけど、取り返して出しなおさなきゃ。
職員さん、お願いです。大学への説明のために、一筆書いていただけますか。辞令が出る前に詳しいことを書けないのはわかってます。『島村茂の勤務予定地は遠隔地であり、そこからN市に通うのは不可能である』だけでけっこうです。あと、県庁のこちらの部・課の名まえを。スタンプでけっこうです。
ありがとうございます。さっそく行ってきます。茂くん、宿で会いましょう。」
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「島村くん、きみはすごい奥さんをつかまえたね。オレに指令を出すなんてなまいきだと思ったけど、指令の内容が的確だから、応じないわけにいかない。あの判断を瞬間でできるとは、たいしたもんだ。」
「彼女には大学に行くお金がなかったんです。それで、ぼくのために親がためておいてくれたお金をまわすことにしたんです。」
「そうか。それできみは高卒就職なのか。その決断をしたきみもすごいな。
S町勤務でも、ときどきN市に出張があるよ。県庁の旅費は定額支給で、宿の領収書なんかはいらないから、ちょっと自分でたして、ふたりべやをとるといいよ。ただ、市内に家族の住居があると宿泊費が出ない。大学の寮なら、訪問者を泊めないという規則があるだろうから、その証拠を示してくれればだいじょうぶだろう。」
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