第4話
エクス「それじゃあ、あの鬼姫が桃太郎を挑発するようなことを言ってたのは」
レイナ「桃太郎の注意を鬼ヶ島から引きはがすため・・・少しでも時間を稼ぐためだったのね」
赤鬼「このままじゃ、あの子はずっと化け物に追われ続けることになる。だから、一緒に謝ってきびだんごを返そうって言ったんですけど、聞き入れてもらえなくて」
エクス「ねえレイナ。あの鬼姫はカオステラーなの?」
レイナ「いいえ。最初にも言ったけど、この想区にカオステラーの気配はないし、彼女は自分が運命の書と違う行動を取っていることに引け目を感じている。彼女が自分の行動を悔いている間は、カオステラーにはならないでしょう」
エクス「つまり、レイナの調律は使えないってことか」
赤鬼「あの、みなさんが来る前、あの子は自分に未来がないと言っていたんです。それがどういう意味なのか、分かりますか?」
エクス「未来が、ない?」
レイナ「おそらくだけれど。・・・この想区の鬼姫は、桃太郎との決戦の後、死んでしまうのではないかしら」
エクス・赤鬼「え!」
レイナ「まだ、一人で旅をしていたとき、こことも、タオとシェインの故郷とも違う桃太郎の想区を訪れたことがあるの。そこでは桃太郎と鬼姫が数々の戦いを通し、お互いを知り、惹かれあっていくのだけど、最後には二つの異なる種の共存が不可能であることを知って、鬼姫は崖から身を投げてしまうの」
エクス「ってことは、その想区の桃太郎と鬼姫は恋人どうしだったの?」
レイナ「ええ。カオステラーによって運命を捻じ曲げられてしまっていたけれど、二人はそれでも互いを愛していたわ」
赤鬼「じゃあ、あの子も・・・」
レイナ「そうね。あの桃太郎と恋仲になる可能性も・・・」
エクス「レイナ。そうじゃないでしょ」
レイナ「ゴホン。ええ。彼女も物語の最後で、死んでしまう可能性も、ゼロではないわね」
エクス「赤鬼! どこへ行くの⁉」
赤鬼「あの子のところに決まってるじゃないですか!」
レイナ「だめよ! これ以上物語がこじれるのを防ぐためにも、私たちは余計な手出しをしてはいけないわ」
赤鬼「嫌です! 放っておけない!!」
レイナ「こんなこと言いたくはないけれど、鬼姫が運命の書に逆らう行動を取ってしまうきっかけを作ったのはあなたなのよ」
エクス・赤鬼「!」
レイナ「赤鬼。あなた、桃太郎のことも鬼姫のことも知らなかったわね。桃太郎の物語での重要人物であるあの二人を」
エクス「そうか。あかたろうが桃太郎の物語に関係しているなら、彼らの名前を知らないはずがない」
レイナ「あなたが本来会うはずのない二人と会ってしまったことで、この想区に歪みが生じた。きびだんごを盗もうと決めたのは鬼姫だけれど、桃太郎にすきを与え、物語を歪めてしまったのはあなたなの」
レイナ「言い方が厳しくなってしまったけど、これが事実よ。あなたがあの二人を思うなら、これ以上関わるのは」
赤鬼「だったらなおさら行かなくちゃ」
レイナ「はあ⁉ あなた私の話を聞いてた⁉」
赤鬼「ぼくのせいでこんなことになったのなら、ぼくがなんとかしなきゃならないのが道理でしょう?」
レイナ「そうだけど! そういう問題の話じゃ」
赤鬼「それにぼくは、昔自分にそう言い訳をして、唯一無二の親友を失いました」
赤鬼「もうお分かりかもしれませんが、ぼくは鬼です。それも人と友達になりたいなどと願う、酔狂な鬼です。そんな酔狂な鬼に付き合って、汚れ仕事をすべて請け負って、ぼくのために人に嫌われ傷だらけになりながらも、最後までぼくのことを案じて去っていった、本当に心から大切な友人がいました。ぼくは彼を失ってからは、ただただ泣き続けました。泣いて泣いて、ぼくの泣き声が山を反響して、別の山にいた猟師さんが気づいてやってくるまで泣き続けました」
赤鬼「でも、その猟師さんが言ったんです。『大切な友達なら、どうして探しに行かないんだ』って。そのとき初めて気づきました。ぼくはずっと、運命の書を言い訳にしてたんだって」
赤鬼「運命の書はぼくらの生き筋。でも、それを何もしない理由にしたくない。運命の書に書かれた道筋の中でも、自分の望む未来のために、自分のできることを探したい。ぼくはもう、やる前から諦めたくない」
赤鬼「だからお願いです。あの子のところへ行かせてください」
エクス「・・・ねえ、レイナ」
レイナ「・・・・・・。はあ・・・。わかってる。今なにか方法がないか考えてるのよ」
赤鬼「?」
レイナ「赤鬼。一つ、約束してちょうだい。あなたがやっていいのは鬼姫の命を救うことだけ。それも一度きりよ」
レイナ「あなたが鬼姫を助けた後、彼らがどんな結末を選んだとしても、それを妨げることをしないと約束できる?」
赤鬼「・・・できます」
レイナ「どうなるかわからないわよ。下手したらあなただって無事ではすまないかもしれない」
赤鬼「大丈夫です。ぼくは親友を探して村のみんなに紹介するまで、絶対死なないって決めてますから。それに」
エクス・レイナ「?」
赤鬼「それに、ぼくはまだ、あの子の名前をちゃんと聞いてないんです。あの子の口からちゃんと自己紹介してもらうまで、意地でも死なないし死なせませんよ」
レイナ「何を言っても引きそうにないわね」
赤鬼「はい! あ、あと一つだけ。桃太郎に事情を説明させてください。あの子はきっと、自分からはなんの言い訳もしようとしないと思うから」
レイナ「・・・はあ。だめだわ。根っからのおひとよしのおバカだわ」
エクス「それじゃあ、それに付き合う僕らも、根っからのおひとよしのおバカだね」
シェイン「姉御! 新入りさん!」
レイナ「シェイン! 何かあったの⁉」
シェイン「ヴィランが大量に現れて、メガヴィランも出てきてタオ兄たちだけじゃ倒しきれない数なんです。シェインは姉御たちを呼んで来いってタオ兄に言われて」
エクス「赤鬼、走れる⁉」
赤鬼「行けます!」
レイナ「時間がないわ! みんな、急ぐわよ!」
ヴィラン戦
桃太郎「まさか鬼と共闘することになるとはな!」
タオ「桃太郎! 憎まれ口叩いてねえで手ぇ動かせ! だいぶ減らしたとはいえまだ気は抜けねえぞ!」
鬼姫(私のせいだ。私が馬鹿なまねをしたばかりに、無関係な者たちまで自分の罪に巻き込んでしまった。・・・私は鬼ヶ島の頭領失格だ)
鬼姫「はあっ」
鬼姫(だからせめて、巻き込んでしまったこの者たちだけは死んでも守る。同胞や先代たちに顔向けできるよう・・・私が鬼姫失格とならないためにも!)
桃太郎「退け退け退けええええ!!」
桃太郎「鬼姫ばかりに格好つけさせはせぬぞ!」
タオ「やるじゃねえか桃太郎!その勢いで残りも全部蹴散らしてやれ!!」
桃太郎「言われずとも!! それに、こ奴らに邪魔をされたせいで勝負が有耶無耶にされたのだ。こ奴らをすべて始末した後、今度こそおぬしと決着を着けるからな」
鬼姫「あ、ああ」
タオ「つっても桃太郎、さっきの勝負、だいぶ鬼姫に押され気味だったよな」
桃太郎「あれは小手調べ! 拙者の本気はあんな程度ではない!!」
タオ「へーへー、そういうことにしてやりますよっと」
桃太郎「おい!」
鬼姫(化け物も減って、気持ちに余裕がでてきたか。この調子なら―――)
鬼姫(!? なんだ? 寒気がする)
タオ「くそっ メガヴィランまでいるのかよ⁉」
桃太郎「全員でまとめてかかれば倒せぬ敵でない! 行くぞ!」
鬼姫(駄目だ。もう一体いる。桃太郎は気づいていないのか⁉)
タオ「桃太郎! 戻れ! 狙われてるぞ!」
鬼姫「――ッ 桃太郎!!」
桃太郎・タオ「!!!」
桃太郎「っ! なぜ庇った⁉」
タオ「まずい、あっちは崖だぞ!!」
鬼姫(飛んでる・・・弾き飛ばされたか)
鬼姫(体が動かない。このままでは海に)
鬼姫(ああ、そうか)
鬼姫(これが、裁き)
「鬼姫――――!!!!」
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