第3話

三話

一か月前、大嵐が鬼ヶ島を襲い、村の畑や生簀が多大な被害を受けた。村はまだその復興作業に追われており、到底桃太郎とその仲間を迎え撃てる状況ではない。そのうえ、船の多くが海に流されてしまい、女子供を逃がす計画にも影響が及んだ。


赤鬼「災難だったね・・・」

鬼姫「そんなときに限って、桃太郎が鬼退治に向かっているとの噂を聞き、手の空いていない男鬼たちに代わって、私が偵察をしに島を出てきたのだ」

赤鬼「まさに踏んだり蹴ったり」

鬼姫「そして私は目当ての桃太郎が、こちらの事情も知らずぐーすかとのんきに寝ているところを発見し、奴に気づかれぬようそっと近づいた」

鬼姫「桃太郎といえど、所詮はただの童。戦いに秀でた男鬼に混ざり、日々の鍛錬を欠かさずこなしてきた私にとって、気配を殺し奴の枕元に近づくなどたやすいこと。息を殺し、草の葉を撫でる風の音に紛れ、奴の寝首をかけるすぐそこまで近づいたそのとき・・・」

赤鬼「ごくり・・・」

鬼姫「おぬしが現れた」

赤鬼「へ? ぼく?」

鬼姫「おぬしは隠密行動がまるでなっておらぬな。鬼のくせに、まるで戦を知らぬようだ。おぬし、よく今まで生きてこれたな」

赤鬼「え、そこまで言われるほど?」

鬼姫「おぬしは足音を殺すこともなく桃太郎に近づき、おもむろに顔をのぞき込んでおった。そんなあからさまでは桃太郎も起きるというもの。案の定、奴はすぐに目を覚まし、突如目の前に現れたおぬしの顔に度肝をぬかれていた」

赤鬼「そう言えば、そうだったかも・・・」

鬼姫「そして、おぬしらが口論を始めたのを見たそのとき、私は思いついてしまったのだ。『桃太郎はまだ、仲間を見つけていない。なら、今ここできびだんごを盗んでしまえば、当分桃太郎も鬼ヶ島に攻め入ってくることはないのでは』、と」

赤鬼「・・・」

鬼姫「愚かな私は衝動の赴くままきびだんごを掴み、その場を逃げ出した。だが、運命の書に逆らった私を天が見逃すはずがなかった。天は罰を下し、私に黒い化け物を差し向けた」

赤鬼「でも、君は返そうとしたんだね」

鬼姫「え?」

赤鬼「きびだんごを元の場所に戻そうとしたんでしょ? だから君はあそこに戻ってきた」

鬼姫「・・・」

赤鬼「ね、今からでも遅くないよ。桃太郎に返しに行こう? なんだったら、一緒に謝ってあげるから」

鬼姫「無駄だ。人間は鬼を嫌っている。ましてや相手はあの桃太郎だ。ただで許されるはずがない」

赤鬼「そんなことないよ! 人は君が思っているほど狭量じゃない。話せばきっとわかってくれるよ」

鬼姫「変わった奴だな。鬼のくせに人間をかばうか」

赤鬼「ぼくの住んでたところは、人と鬼が仲良く暮らしてたから」

鬼姫「・・・」

赤鬼「やる前からできないって決めつけるのはよくないよ。ここの人も桃太郎も、理由を話して心から謝ればきっと許してくれるよ。だから、ね?」

鬼姫「・・・やはり返せない。返せば桃太郎が鬼ヶ島にやってくる。みんな疲弊しきっていて、とても戦ができる状態でないのに。せめて、女子供を逃がしてから」

赤鬼「でも、このままじゃ君が」

鬼姫「構わぬ。・・・どうせ、私に未来などないのだから」

赤鬼「それってどういう」

ヴィラン「クルルル・・・」

赤鬼「うわっ 出た!」

鬼姫「運命に背く罰、か。いいだろう。同胞たちのためならば、いくらでも甘んじて受けよう!」



ヴィラン戦



桃太郎「見つけたぞ!」

エクス「シェインの言った通り、ヴィランの現れる方へ方へと向かってみたけど、本当にいたなんて」

シェイン「ふっふっふ。見ましたか新入りさん。これぞ鬼ヶ島流推察術なのです」

レイナ「まさかあなたが犯人だったなんてね、鬼姫。その隣にいるってことはあかたろう、あなたもグルだったってことなのかしら?」

タオ「おいおい見損なったぜあかたろう!」

赤鬼「待ってください! これにはちゃんとした理由があって」

鬼姫「赤鬼。巻き込んですまなかった」

赤鬼「え?」

鬼姫「お前たちの言う通り、きびだんごは私が盗んだ。こいつを囮にしてな」

レイナ「なるほどね。つまり一連の事件は、すべてあなたたちが仕組んだことだったのね」

赤鬼「ちょっと、何言って」

鬼姫「お前はもう用済みだ」

赤鬼「わっ!」

主人公「あかたろう! 大丈夫⁉」

タオ「おいテメェ! 仲間に刀向けるたぁどういう了見だ⁉」

鬼姫「どうした桃太郎。ずいぶんと静かだな。ああ、そうか。頼りのお供がまだ見つからず、心細いのか」

桃太郎「なんだと!!」

鬼姫「仲間のいないお前の相手など私一人で十分だ。今すぐ決着をつけてやる。ついて来い」

桃太郎「臨むところ!!」

赤鬼「待ッ! 痛っ」

エクス「動いちゃだめだ。けがはひどくないけど、血が出てる」

レイナ「今、手当をするから。ああでもまずいわ。二人を見失ってしまう」

タオ「あいつらは俺らが追いかける! お嬢はそいつのケガを看てやってくれ!」

シェイン「タオ兄が暴走しそうになったら、シェインがしっかり止めますんで安心してください」

エクス「二人とも、気を付けて!」

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