第1話

――新たなカオステラーの気配を追って旅を続けていた僕たちは、とある想区を通り抜けようとしていた。そこは、桃太郎や平安京の想区と似た雰囲気をもつ、とても平和な想区だった。


レイナ「ん~空気がおいしい!」

エクス「ここのところずっと沈黙の霧の中だったしね。無事に抜けられてよかったよ」

タオ「しっかし見事な田んぼだな。苗もよく育ってるみたいだし、土壌もいいのかもな」

エクス「へえ。タオ、詳しいね」

タオ「あったりまえだろ? 実家も田んぼ持ってたし、ガキん頃から田植えから収穫まで一通りこなしてきたんだぜ」

レイナ「働いてるタオなんて、あまり想像できな・・・きゃっ! なに? 何か背中に飛んできたんだけど⁉」

シェイン「姉御、背中にカエルがひっついてますよ」

レイナ「きゃあああああ!!!!」

エクス「レイナ落ち着いて。今取ってあげるから・・・」

レイナ「なに? 取れた? 取れたの?」

タオ「おい、向こうから全力疾走してくるあれ、もしかして人間じゃねえか?」

シェイン「しかもその後ろを追っかけてるのって、もしかしないでもヴィランじゃないですか?」

エクス「それにあの走ってる人のうちのひとりは・・・桃太郎⁉」

??「ゎぁぁぁぁああああああ!!!」

エクス「うわっ」

シェイン「おお。あの全力タックルを受け止めるとは、やりますね新入りさん」

??「お願いします助けてください!!」

エクス「えっと、いったい何があったの?」

桃太郎「やっと追いついたぞこの盗人め! 成敗してくれる!! おとなしく拙者のきびだんごを返せ!」

??「違いますぅ! ぼく、あなたのきびだんごなんて盗んでませんー!!」

エクス「あのー、二人とも、僕を挟んで喧嘩しないでくれないかな・・・?」

シェイン「あの人たち、ヴィランそっちのけで大騒ぎしてますね」

タオ「自分たちの置かれてる状況、わかってねえのか?」

レイナ「ねえ取った? カエル取ってくれた⁉」

シェイン「とにかく、今は目の前のヴィランに集中しましょう」

タオ「久々の実戦だ。肩慣らしに丁度いいな。ヴィランども、このタオファミリーが相手になるぜ!」

レイナ「カエルは~~~~!!?」



ヴィラン戦



桃太郎「覚悟―!!」

??「わああああ!!!」

タオ「まだやってたのかよ」

レイナ「ひどくない? たった一言『カエルは取ったよ』って言ってくれるだけでよかったのに。おかげでこっちはカエルが服の中に入ってくるかもしれない恐怖にさらされながらのヴィラン戦よ」

エクス「ごめんってばレイナ」

タオ「こっちもまだやってたのか・・・」

シェイン「姉御、新入りさん。ひとまず休戦してこちらの方々の話を聞きませんか?」

タオ「で? そっちの二人はなにがあったんだ?」

??「この人が! この人がぼくにあられもない濡れ衣を!!」

桃太郎「違う! 拙者がちょっと目を離したすきにこやつがきびだんごを盗んだんだ!」

タオ「だーーー! いいから片方ずつ喋れ。とりあえず、まずは桃太郎!」

桃太郎「はて。拙者、おぬしらに名を名乗った覚えはないのだが・・・」

シェイン「あ、今はそういうのいいんで。ちゃちゃっと説明しちゃってください」

桃太郎「はあ。拙者、おぬしらの言う通り、名を桃太郎と申す。今は鬼ヶ島へ向かう旅の途中で、その休憩がてらに木陰で昼寝をしていると、何者かの気配を感じた。とっさに飛び起き荷物に手をやると、きびだんごが盗まれていて、目の前にこの男が立っていたのだ」

??「だってあまりに動かないから、死んでるのかと思って」

桃太郎「死体だと思ったから盗みを働いたのか⁉ どこまでも卑しいやつめ!」

??「どうしてそうなるんですかぁ!」

レイナ「はいはい落ち着いて。次はあなたの番よ。話してくれる?」

エクス「よかった。やっといつものレイナに戻った」

タオ「おう、お疲れ」

あかたろう「ぼくはあか・・・あかたろう。ここから山を五つ越えたところに住んでました。いなくなった親友を探して旅をしている途中でした」

エクス「いなくなった? その友達の身になにかあったの?」

あかたろう「それは・・・」

エクス「え?」

あかたろう「・・・う、うう・・・ぐす・・・」

シェイン「あ、新入りさん、泣かせましたね」

エクス「僕のせい!? ご、ごめんね。そんなつもりじゃなかったんだ。言いたくないなら言わないでいいからね」

タオ「ったく。面倒なのに引っかかったな・・・」

レイナ「タオ!」

桃太郎「ふんっ たとえ泣いて同情を引こうともこの桃太郎は騙されぬぞ。おぬしがきびだんごを盗んだ疑いはまだ晴れていないのだからな!」

あかたろう「ぼくじゃないですってばぁ!!」

レイナ「よしなさいあなたたち。桃太郎はいちいち突っかからないの」

桃太郎「むぅ」

シェイン「まあまあ桃太郎さん。確かにきびだんごは『桃太郎』ではキーアイテム的な物ではありますが、もしこのまま見つからなくても最悪おじいさんとおばあさんのところへ戻って、恥を忍んでもう一度作ってもらうという手もありますよ」

桃太郎「それはできない」

エクス「どうして?」

桃太郎「出立する前日、村をあげての大宴会を催していただいたのだ。あれだけ盛大に送り出されたのに、なんの手柄も立てずにのこのこ帰るなど・・・しかもいただいたきびだんごを失くしたなどと報告するなど・・・精神的に、無理だ」

タオ「シェイン、男のプライドの問題だ。察してやれ」

レイナ「えーっと、そうだわ。もう一つ聞きたい事があるの。あなたたち、さっきの黒い化け物・・・ヴィランって言うのだけど、どうしてあいつらに追いかけられていたの?」

あかたろう「さあ?」

桃太郎「拙者が目を覚まし、この男に詰め寄った時に初めてあの化け物たちに気づいたのだ。応戦する前にこやつが逃げ出し、見失っては困ると拙者も後を追いかけた」

シェイン「そうこうしているうちにシェインたちと出会った、と。姉御、どう思います?」

レイナ「この想区にカオステラーの気配はない。ということは、ヴィランを生み出しているのはストーリーテラーということになる。問題は、いったい何がストーリーテラーの書いた運命と食い違ってしまったかということね」

タオ「なあ、ここで議論してても埒が明かねえし、一度桃太郎たちがヴィランと会ったって木陰まで行ってみねえか?」

レイナ「そうね。桃太郎、案内を頼めるかしら」

桃太郎「承知した。こっちだ」

あかたろう「・・・そういえばあの化け物たち、はじめに見たときよりも数が減ってた気がします」

エクス「そうなの?」

あかたろう「はい。木陰で見たときは、もっといっぱいいたような・・・」

レイナ「エクス―、あかたろうー、早くしなさーい!」

あかたろう「はーい!」

エクス「今行くよー!」

エクス(・・・あかたろうの言ったことが本当なら、残りのヴィランは一体どこへ消えたんだろう?)





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