第28話

 そして13日の金曜日メリンダたちは、またエリックの家のリビングに集まっていた。エリックとビル、この家のもう一人の住人のポールと、メリンダと同じ寮にすむアナと、ポールのガールフレンドのシェリルも一緒だ。

 どういう経緯だったか分からないがフライデーランドの情報公開のカウントダウンパーティーをすることになったのだ。

 既にソファに囲まれたローテーブルにはデリバリーのピザとサラダ、あとはポップコーンやチョコレートなど菓子類が鎮座している。キッチンのカウンターには酒屋からレンタルしたビールサーバーが置かれ、その横には赤白取り混ぜたワインとシャンパンが数本置いてある。

 6人しか居ないのにえらい気合の入りようである。

 大型のテレビにはPC画面が映し出されておりカウントダウンの数字はあと数分とまでになっている。


 ビルが皆にカップを回しながら宣言する。

「ちょっと早いが始めよう! カウントダウンに合わせて初めて何も起きなかったら盛り上がらないからな! 乾杯!」

「何に乾杯なんだ?」

 ポールから突っ込みが入った。

「えー、金曜の夜8時というベストな時間にカウントダウンのゼロポイントを設定した若き経営者の叡智に!」

「乾杯!」

「乾杯〜」


 アナが早々にビールを飲み干して口を開く。

「ねえビル。こういう情報公開が8時って珍しいの?」

「うむ、良い質問だ! 多くは日付の変わる瞬間、つまり夜中の0時に設定されることが多い」

「ああ、ゲームの新作販売みたいな?」

 そう受けたのはシェリルだ。

「まさしく! しかしながらこのフライデーランドのような無名なテーマパークでは、情報公開を心待ちにしてる者は全米で我々を含め数名しか居ないのだからこれは英断といえる。太平洋タイムゾーンはまだ17時でちょっと早いが、我らがフライデーランドのためにアメリカを横断してくるような変わり者は時間なぞ関係ないだろうから正にパーティー向けな時間設定だと断言しよう!」

 ビルの大袈裟でハイテンションな物言いに釣られて皆のテンションも上がってきた。

「東部時間帯に乾杯!」

「乾杯!」

「乾杯〜」


 エリックもすっかり機嫌が良くなっていた。何か怒りを収めるきっかけが欲しかったのだろう。楽しそうに皆の飲み物を注いで回っている。

「そろそろ時間だ!」

「音楽を消せ!」

 皆が画面に注目する。

「10、、、、、5、4、3、2、1、、、」

「ゼロ〜!」


 何も起こらない。

 カンウントダウンタイマーが0になっただけである。

 そのまま10秒ほど経って皆が不満の声をあげた途端、画面が切り替わった。

 真っ黒だった画面が一閃、斜めに赤いラインが入りそこから血が流れ出てくるようなアニメーションが始まった。

 そしてフライデーランドの文字。


 《恐怖のテーマパーク開園!》

 《究極の鬼ごっこ!》

 《生還者の出たチームには賞金2000ドル!》

 《キミは朝日を拝めるか?!》


 このような文字が次々に現れては消え、終わると普通のトップページに切り替わった。

 黒みが多いのでテーマパークのウェブページというよりはメタルバンドのウェブページという雰囲気だ。


「おお〜、、、?」

 皆がパラパラと拍手をした。

「つまり?」

「ま、大体俺たちが想像してた通りの施設だな」

「2000ドルって微妙ね〜」

「これ著作権とか大丈夫か?」

「ルールはいわゆる鬼ごっこでいいのかしら?」


 などと各々が勝手な感想や疑問を口にしていると手元のタブレットに集中していたビルが手を挙げた。

「まて、お前ら。これは意外とちゃんとしてるぞ?」

「え、どういこと?」

「レギュレーションっていうか参加資格が割と厳しい」


 ビルが見ているのは文字だけの規約のページだ。

「保険契約並に規約が多い。これに全員がサインしないとゲームに参加できない」


「ゲームなの?」

 とアナ。

 ビルはタブレットから目を離さずに答える。

「ああ。ルールを簡単にいうと、夜の10時から朝の6時までジェイソンに捕まらずに逃げ通せれば賞金ゲットの"鬼ごっこ"だ」


 ポールが笑う。

「触れられたらアウト? 大人が真剣マジにやるゲームじゃないよな」

「それがタッチアウトじゃなんだ。宿泊客には反撃の権利が与えられてる」


 その言葉にエリックが反応した。

「反撃って、殴ったりして良いってことか?」

「そう、申請すれば武器の持ち込みも可能だ。その代わり同じレベルの武器をジェイソン側も使用してくる」


 エリックが少し慌てる。

「武器って銃とかもか?」

「いや、銃はまだみたいだな」


 ポールが驚きの声をあげる。

「"まだ"ってことはそのうちOKになるのか?」

「どうやらそうみたいだな」


 唐突にビルが振り返って皆を見て口を開いた。

「正式オープンは来年の夏だが、今年からプレオープンするらしい。テストボランティアを募集してる。男女半々の上限6名のパーティーが参加条件だ。応募するか?」


「やろうぜ!」

「いやよ〜」


 男女が真逆の反応を示した。


 ビルが女性陣に対してまくし立てる。

「いやいやいや、淑女諸君は開始早々にギブアップしてもらってあとは男連中でやるからお願い!」


 女性陣からは反対の声が起きる。

「ええ〜? ギブアップした後、朝まで何してれば良いのよ〜」

「そうよ、外に放置とかされたら虫に刺されちゃうじゃない!」

「牢屋で朝を迎えるなんてごめんだわ」


 それを聞いてポールもスマートフォンをだしてルールを読みだした。

「あったあった。敗者たち《デッドメン》はバス、トイレ付き、冷暖房完備の"監獄"で監視カメラ映像でゲームの続きを観ながら快適に朝を迎えることができます。なお、監獄には鍵は掛かっておりませんが1度入った者が1歩でも外に出た場合、その時点でチーム全員が失格となります」


 ビルが期待に満ちた目で女性陣を見渡す。

「どお?」


 アナとシェリルは態度を軟化させた。

「それなら良いけど、参加費エントリーフィーや足代なんかは男子が出してよね!」

「ちょっと面白そう〜 ポールたちがジェイソンに捕まるところが観れるんでしょ〜? フフフ、、、」


 いつの間にかスマートフォンを出していたエリックも口を挟む。

「でもアレだぞ、こうある。監獄のバスルーム以外の全ての部屋には隠しカメラが設置されており、参加者にはプライバシーはありません。後日、その映像は動画配信サイトにて公開されます、だと」


 メリンダとアナがそれを聞いて悲鳴をあげた。

「シャワーもトイレもなんて絶対無理、ありえない!」


 ビルが慌てて付け加える。

「大丈夫だよ! 着替えやシャワー時などの深刻なプライバシーに関わる部分を放映する場合はモザイク処理をして公開するって書いてある!」


 ポールが冷静にそれを受ける。

「まあ、何処で配信するかによるけどYouTubeなんかはエロは禁止だしな」


 メリンダは断固反対の姿勢で反論する。

「でもその映像を編集する人は観る訳でしょ? それに流出とかされちゃったらどうなのよ?」


 シェリルが首を傾げながら異論を挟む。

「でも、ゲーム開始直後に監獄に入れば別に大丈夫じゃないの〜?」


 メリンダがシェリルを嗜めるように言う。

「小屋に何時にチェックインするか知らないけど着いて直ぐにトイレに行きたくなっちゃったらどうするのよ?」


 ビルが応える。

「それなら、その人はその時点で監獄入りだ」


 アナがそれを聞いて目を剥く。

「それって、みんなが湖で泳いだりバーベキューしたりしてるのをひとりでモニターで観てろってこと? 酷くない?」


 ビルが観念したように天井を仰ぐ。

「うーむ、ハダカを見られるのが平気なビッチじゃないとパーティーは組めないか、、、 」


 シェリルがピクリと反応した。

「ちょっと、今カレン達のことを考えてるでしょ〜 絶対駄目よ〜 ポール、あの子達と泊まりで遊びに行くなんてことしたら、あたし達の仲はこれまでだからね〜」


 ポールは黙って手を挙げて降参の意思を示した。

 ビルはぶつぶつと「話の順序を間違えた。外堀から埋めて巻き込むべきだった、、、」などど呟いている。


 エリックは大きく溜息をついて注目を集め、静かに話し出した。

「実はフライデーランドに行くって話になったら始めから反対しようと思ってたんだ」


 ビルとポールが意外そうにエリックを見る。


 エリックは続けた。

「実はメリンダがちょっと怖い思いをしてね。メリンダの車がフライデーランドのご近所さんにイタズラされて、親父さんの拳銃が盗まれたらしいんだ」


 アナとシェリルは息を呑んだ。

 

「で、ジェイソン氏が介入して拳銃は手元に戻ってきたんだが、その時のやりとりでメリンダが感じ取ったらしいんだ、、、」


 ビルが聞く。

「何を?」


 エリックが囁くように続ける。

「異様な何か。ある意味"匂い"と言っても良いかもしれない」


 メリンダは真剣な面持ちで腕を組み、エリックの言葉に頷いている。


 ポールが唾を飲み込んで訊いた。

「何の?」


「殺人のだ!」

 エリックはビルに飛び付いて首を絞めながら叫んだ。もちろんふざけてである。


 ビルが笑い出す。

「おいおいおい、盛り上げるな〜! 、、、でもアレだな? マジな話なんだな?」


 エリックが素直に認める。

「まあな。それで俺たち、ちょっと揉めてたし、メリンダもインタビュー調査はやめて数字系に変えたんだ」


 シェリルとアナがメリンダに同情を示す。

「怖い思いをしてたんだ。笑ってゴメンね」

「いいのいいの、何も起きてないのにビビったって話だから。フライデーランドのことは、みんなに笑ってもらって逆に助かった感じよ」

「インタビューがアレだったから、方向性を変えたんじゃなかったのね〜」

「あらシェリル、失礼ね」

「ゴメンてば〜」


 ビルが大袈裟な咳払いをして注目を集めた。

「ということはだ。ジェイソンに挑むならフライデーランドが実際に稼働し始めて安全性が確保されてからということだな?」


「行かないっていってんでしょ!」

「懲りないヤツだな〜」

「自分でビッチ集めて行って来なさいよ!」


 女性陣は大ブーイングだったが、何故か男衆は目を見合わせて頷きあっていた。





 

 



 

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金曜の帝国 由利 唯士 @Yuriheidi

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