第9話
メリンダはそれから数日間、レポートにつかえそうな他の観光施設を調べて過ごした。
トウモロコシ畑を迷路にしているホテルや、幽霊屋敷の伝説を大事に保存している町や、UFOの目撃率が全米ナンバーワンの村とか、高名な天文学者の出身地であることを理由に"宇宙の街"を謳っている街など、大半はこじつけのオカルトネタだった。
開発規模もまちまち。 "地方経済の活性アイデア"というテーマはともかく、個人の取り組みにフォーカスするのはやはり無理があったかもしれない。
そして自治体レベルの取り組みはやはり"新しい観光資源の創出"ということであり、既存の地方性に新しい価値を見つけ出すようなアイデアというのは見当たらない。
メリンダは改めてアメリカは歴史のない広大な田舎なのだと思い知らされた。
生まれてからずっと都会であるフィラデルフィアとボストンしか知らずに育ったメリンダのこの国に対する認識がもうひとつリアルではなかったということだろう。
メリンダは溜息をついてPCを閉じ、ベッドに仰向けに転がった。
レポートの主題を「市町村のユニークな観光への取り組み」に変えてしまったほうがスムースに進みそうだ。サブタイトルは"オカルトに走るアメリカの田舎"だ。
オカルトやユニークはさておき、各地での観光に対する開発規模や来客者の人数の推移などの数字をきっちり出していけばなんらかの法則性が見えてくるかもしれない。
都市からの距離、空港からの距離など、移動手段の利便性を数値化し、開発規模と観光客の増減の関連性をはっきりさせれば地方開発アドバイザーという新たな職への道が開けるかもしない。
それに数字をメインにすれば、いちいち長距離を移動して取材に行かなくても自治体の公表している資料をメインに調べることができそうだ。ジェイソンのような得体の知れない男に出会うこともない。
レポートの内容の変更はまだ間に合う。
よし、ボストンに戻ろう。研究室はまだ開かないが寮には仲間たちがいる。このアイデアを皆に精査してもらおう。そしてフライデーランドの事も皆に面白おかしく聞いてもらおう。
みんなに笑って馬鹿にしてもらえば過去のことになる。ボーイフレンドのエリックにも少々スリリングに話を聞かせてちょっとした心配と嫉妬をさせてやろう。そしたらアイツは慌てて求婚とかしてくるかもしれない。
メリンダは脚を跳ね上げ勢いをつけて起き上がり、PCを開きフライトチケットの手配を始めた。
善は急げだ。飛行機に乗ってしまえばボストンまでは1時間だ。
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