第7話

「ステンレスのチーフか、M66だな」

 そうすぐに理解を示したジェイソンにメリンダは驚いた。男って生き物は何故こんなに銃に詳しいのだろうか。

「サブに使う定番の銃だ。お父さんは警察関係者?」

 ジェイソンはメリンダの声が聞けて嬉しそうだった。

「いいえ、リタイアしたしがない経営者よ」

 メリンダも浮ついた声が出そうになったが努めて事務的な硬い声で応答した。

「優秀な方なんだね。じゃあ、取り返せたらまた連絡するよ」

 ジェイソンとの通話が終わりに近づいている。しかしメリンダはまだジェイソンの声を聞いていたかった。

「あ、あの、銃を取り返せたらなんだけど。あたしがそっちに取りに行くから」

「本当に? 悪いよ」

「いいえ! グローブボックスに拳銃を放置したあたしにも責任の一端があると思うの。だからあたしが取りに行くわ」

 責任のところに少し力を込めて大人の女をアピールしてみる。

「わかった。じゃあ、その時は昼時に来てくれ。ご馳走を用意しておくよ」

 メリンダとしては夕食を共にしたかったが、いざとなったらこないだと同じ手を使えばいいだろう。メリンダは期待に胸を膨らませた。


 ジェイソンからメールが来たのは翌日の夕方だった。

メールには、

"お父さんの拳銃を取り戻したと思う。シリアルナンバーを確認してもらってくれ"

 という短いメッセージのあとに大写しの銃身の写真が添付されていた。刻印された番号が見て取れる。

 メリンダはすぐにジェイソンの携帯に電話した。

「ハイ、ジェイソン。メール見たわ!」

「ハイ、メリンダ」

 少し息を荒くしたジェイソンの声が聞こえてきた。

「あら、何か作業中だった? ごめんなさい」

 ジェイソンの小屋の辺りはもう既に真っ暗だろうに、まだ大工仕事を頑張っているのだろうか。

「いや、大丈夫だ。いま終わったところだよ」

 その時、ジェイソンの声の向こうから別の男性の声がした気がした。と同時に何かが倒れるような大きな音。

「大丈夫? 何があったの?」

 メリンダは尋ねた。

「ああ、大丈夫だ。手伝ってくれてる奴が盛大にくしゃみをして木材を倒したんだ。なんともないよ」

 メリンダは意外に思った。ジェイソンは今まで誰の手伝いもなしに小屋の修繕をしてきたはずだった。

「誰かに手伝ってもらってるの?」

「うん。ちょっとね」

 丁寧になんでも説明してくれるジェイソンにしては歯切れが悪い返事だ。

 少しの間があって。

「シリアルは確認してくれた?」

とジェイソン。

「あ、ごめん。まだなの。取り敢えずご苦労様って言いたくて」

「そうか、ありがとう。じゃあ確認取れたらまた連絡もらっていいかな?」

「うん、じゃあまた」

「うん、バイ」

 はっきりとは分からない何かがメリンダを不安にさせた。

 別の男性の声。違和感のある態度。早く電話を切りたがっているような素振り。

 ジェイソンのことをそんなに詳しく知っているのかと訊かれれば、知らないと答えるしかないだろう。なにせ一度きりしか会ったことがないのだ。

 それでもはっきりと違和感を感じたのだ。

 このもやもやした気持ちは何だろう?

 背後に聞こえた男の声。

 ジェイソンはくしゃみと言っていたが、その声は実は「ヘルプ」と言っていたのではないか。

 メリンダの胸に黒い疑惑の靄がじわじわと広がっていった。


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