第6話
メリンダのもとにジェイソンから電話があったのは取材から一週間ほどたった時である。
メリンダは呼び出し中の携帯に表示された番号を見て直ぐにジェイソンだと知れたが通話ボタンは押すことができなかった。
親しげにハイとは言えなかったし、かといって警戒した声を聞かせるのは何故か恐ろしかった。
呼び出しが終わると直ぐに不在着信のメッセージと留守電にメッセージがあるとの表示が出た。
画面をタップして携帯を耳に当てるとジェイソンの柔らかい声が聞こえたきた。
「ハイ、メリンダ。実は僕のご近所さんが君の車から何かを勝手に拝借したようなことを吹聴してるんだが心当たりはある? お父さんにも聞いてみてくれ。折り返し電話かメールをくれると助かる。よろしくね」
メリンダは安堵した。やはりジェイソンは盗みを働くような人間ではなかったようだ。
すぐに折り返そうかと思ったが考え直しメールにする。完全に疑いが晴れたわけではないのでこうしたやりとりは文字で残した方が良いと思われたのだ。
"連絡ありがとう。パパに聞いてみるわ。ところで『何か』って何かしら?"
メールを送信して返信を待つ。
返事はすぐに帰って来た。
"多分火器だと思う。身を守る物ということを匂わせていたし、警察が警戒した様子で挨拶に来たから。お父さんは紛失届を出したとか言ってなかった? あらぬ嫌疑がかけられているみたいで気分が悪いんだ"
本当にジェイソンは拳銃について何も知らないのだ。安心したと同時に申し訳なく思った。黙って紛失届を出したせいでジェイソンに疑いがかかってしまっている。
メリンダは少し考えてから返信する。
"ごめんなさい。パパはすぐに釣りに出掛けてしまったし、わたしはボストンに帰ってしまったから何も聞いていないの"
これは嘘だ。メリンダはまだフィラデルフィアに居たし、紛失届の話も聞いていた。父親だけでなく自分までジェイソンを疑ったと知られるのが気まずかったのだ。
"どうすればいいかしら? パパに紛失届を取り下げてもらえばいい?"
ジェイソンからの返信は数分経ってから帰って来た。熟考してから返信したのだろう。
"とりあえずお父さんに事実関係を確認してくれ。もし銃が無くなったのなら型番も聞いてくれると助かる。できれば僕が話し合って取り返したい。何しろここは田舎なもんでご近所さんを名指しで通報するときっと面倒な事になる。僕からお父さんにお返しするから、そうしたら届けを取り下げてくれればいい。ここでは僕は新参者なんで近所付き合いがなにかと面倒なんだ、分かるだろう?"
メリンダはベッドから立ち上がり階下に向かった。リビングでテレビを観ていた父親に経緯を説明すると父親は渋い顔をした。
「パパは警察に任せた方がいいと思うんだがね。そのご近所さんの名前と住所を聞いてくれ。そしたら電話一本で解決じゃないか?」
メリンダは言い返す。
「その男が銃を隠してしらばっくれたらどうするの? 銃は戻らないしジェイソンはきっとご近所付き合いがやりにくくなるわ。もし銃が出たとしてもそんなちんけな窃盗じゃ犯人は刑務所には入れられない。そしたら結局ジェイソンが『あの余所者がチクった』って睨まれて大変な事になるわ。ひょっとしたらリンチされて殺されちゃうかも」
父親は腕組みをして考え込んだ。
「うーむ、話し合いで取り返したとして、どうやって受け取るんだ? 小包で送ってもらってわけにもいかんだろ」
メリンダは即答した。
「あたしが取りに行くわ。施錠しなかったのはあたしだし」
父親はあきれたように眉を上げて、じっとメリンダを見つめた。そしてこう続けた。
「自分のしたことに責任を持つことはいいことだが、モノがモノだし軽犯罪とはいえ、これは犯罪なんだ。よく考えて慎重に行動するんだぞ。それにそのジェイソンってヤツも本当にまともなのかまだ分からんのだからな」
責任の回収というよりもジェイソンに会いたかっただけだが父親の心遣いを有難く感じた。
「ありがとう。ところであの銃の型番は何ていうの?」
「ステンレスのチーフスペシャルだ。男ならそう言えばわかる」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます