第3話 学園祭当日



ここは、エクスという少年の夢の中。

彼は、目まぐるしい一日を終え、疲れた体を横にして、深い深い夢の中へ入っていった。


僕は、また夢を見ている。

それはわかるけど、この霧はいったなんなんだろう。

そして、この霧はどこまで続いていくのだろう・・・

そういえば、つい最近もこんな夢を見たような気がする。

いつ頃だったっけかな。

ずっと昔に見た気もするけど、つい最近見たような気もする。

そして、その時見た夢には、まぶしい光に包まれた部屋があって、その中に入ると・・・


僕は、目を覚ました。

ぼーっとする頭の中で、さっきまで、見覚えのあるような不思議な夢を見ていた気がするが、どんな夢だったのか思い出せない。

今日は、何日だっけ。

ここは・・・僕の部屋か。

そうか、昨日引っ越してから初めて新しい学校に行ったんだっけ。

僕は昨日のことをゆっくりと思い出していった。

そうか、僕は今日学園祭で王子様の役をやるのか・・・

昨日は勢いに押され、言われるがまま成り行きであんなことになったけど・・・

今日は大丈夫だろうか。

今更緊張してきた。

僕が、人前で演技するだなんて。

でも、今更断れない・・・よな。

気持ちと体が重たく感じる中、体をゆっくり起こし、目覚まし時計に目を向けた。

時計は、もうすぐ6時になるかという時間を指していた。

そういえば、昨日もこんな時間に起きたような・・・気がする。

そんな、うっすらとした記憶を飲み込んで、学校へ行く為の準備をはじめた。

昨日と同じように、ぼーっと何を考える訳でもなく、ただただ見慣れない街の見慣れない風景を眺め、ゆっくり歩きながら登校した。

学校へ着いた僕は、昨日以上に驚いた。

昨日までの準備でバタバタしてた雰囲気から一転し、まるで映画やドラマ、もしくは漫画やアニメに出てきそうなくらいの盛り上がりに、正直ついていけそうにないと感じた。

僕は、学校内の雰囲気に飲み込まれながら、肩をがっくりと落とし教室へ向かう途中、


「おう!おはよう!

お・う・じ・さ・ま!

今日のご気分はいかがかな?」


と冗談ぽく、そして馴れ馴れしく後ろから僕の肩に体重をかけてきたクラスメートのタオくん。

僕は、その返答と態度に困惑してしまった。

だって、何度も言うが、転校初日が学園祭の前日で、しかも、転校2日目で舞台に上がり主役の相手をしろだなんて・・・

誰がどう見てもあり得ないし、馴染めない。

しかし、困惑した表情の僕に向けてタオくんは、


「そんな顔するなよ王子様。

今日は居てくれるだけできっと問題ないだろうから、宜しく頼むよ!

お・う・じ・さ・ま。」


きっと、彼なりに僕の緊張をほぐそうとしてくれているのだろうか。

あのふざけた雰囲気が、どうもまだ慣れないけど、とりあえず、


「・・・ありがとう。

やれるだけ頑張ってみるよ。」


僕は苦笑いで応えた。

そして、学園祭当日が、いよいよ始まった。

生徒の家族や近隣の学校から来る人たちも大勢いるようだが、一般の来場者も数多く、学園全体が確かにお祭りそのものとなっていった。

多くの露店も出店しており、学園中に香ばしい匂いや甘い香りに包まれて、僕も段々お腹が減ってくるくらいだった。

クラスの準備もそこそこに、僕は出番まで一人学園をふらついていた。

5分の1も見れていないだろうが、結構回ったように思える。

そんな転校2日目、僕はワクワクしている自分に気がついた。

昼前にもなると飲食関連の所はもちろん、学園中に人が増え大賑わいになってきた。

僕は人混みを避けようと思い、人気のない屋上へ向かった。

屋上へ向かう階段の途中、『クルル・・・』という鳴き声と共に一瞬人影が見えた気がした。

追いかけるが、そこには誰も居ない。

さっきのは、いったい何だったのだろう。

屋上に上がると、そこには誰もいない、眩しい空間が広がっていた。

これだけ天気が良いと、昼寝でもしたくなる。

空はあまりの眩しさに、目も開けられないくらい天気が良い。

校舎の方からは、たくさんの賑やかな声が遠くに聞こえてくる。

僕は一人、静かに横になった。

少したって、


「大丈夫?」


という少女の声が聞こえてきた。

聞き覚えのある声だ。

この声は、確か前に・・・夢で・・・誰だっけ・・・


「ねぇ、大丈夫?」


呼びかけに応えるように目を開けると、そこにはレイナさんが不思議そうな顔で僕の顔をのぞき込んでいた。

僕は、うとうとして眠ってしまったようだ。

ここは・・・そういえば、学校の屋上だ。

さっきまで、怖い夢を見ていた気がするが・・・

うまく思い出せない。

きっと、どうでもいい夢だったのだろう。

もうすぐ出番だからと、レイナさんが探しに来てくれたようだ。


『ごめんなさい。

すぐに向かいます。』


突然の事に、僕は敬語になってしまった。

僕とレイナさんは、急いで体育館に向かった。

途中、『クルル・・・』という鳴き声らしき音と一緒に、一瞬ではあったが、人影のようなモノも見えた気がした。

一度足を止め、辺りを見回すが、さっきの人影や鳴き声は、もうそこにはなかった。

いったいなんだのだろう?

疑問には思ったが、出番が近い事が最優先なので、急いでレイナさんと体育館へ向かった。

体育館に着くと、一つ前の出番が始まったばかり。

なんとか間に合った。

僕とレイナさんは、台本を確認しながら衣装に着替えた。

一つ前の出番が終わり、とうとうレイナさん率いるクラスの演目が始まる。


「それでは次のクラスは演劇になります。

演目は『シンデレラ』。

宜しくお願いします。」


ナレーションのアナウンスが終わると、段幕が上がり、演目スタート。

練習した台本通り話は進んでいくが、舞台後ろで少しざわついている。

僕の出番はまだ先だったので、クラスメートに何があったのか尋ねると、モンスター役の子達がもうすぐ出番なのに、どこにもいないと探しているようだった。

しかし、モンスターの出番はもうすぐ!

僕は事の成り行きを見守る事しか出来なかった。

モンスター役、第一の出番。

シンデレラが魔法使いの失敗により、モンスターが現れるシーン。

会場の奥、客席側からモンスター登場。

台本にはなかったけど、盛り上げる為の演出かと思い、舞台裏のクラスメートと一緒にため息交じりに一安心していた。

話は進んでいくはずだったが、モンスター役が、

『クルル・・・クルル・・・』しか言わず、動く気配もない。

台本とは違う違和感があったから、これも演出の一つなのかもしれない。

僕がうたた寝している間に、趣向が変わったのだろうか。

でも、なんとなく雰囲気が少し違うように思えた。

次の流れがどうなっていたかを確認しようと、手に持っていた台本に目を通す。

しかし、何故かその台本には一文字の記載もなかった。

真っ白で、何も書かれていない本。

・・・僕は、この何も書いていない本を、どこかで見た事がたぶんある。

これは、夢で渡された、白い本。

空白だけの白い本。

僕は、自分の意思とは関係なく、光り輝く眩しい舞台の上に向かって歩き出した。

異変に気がついたシンデレラもアドリブで僕を呼びよせた。


「ちょっと!そこの通りすがりの人!

このバケモノを倒す手伝いをしてくれないかしら。」


シンデレラを中心に、ネズミ・魔法使い(の見習いという設定)、そして通りすがりの王子様という変な組み合わせではあったが、皆が自然と手にしていた白い本を片手に、一同眩しい光に包まれていった。

皆が衣装を変え、そして手に握る杖や剣でモンスターに挑んだ。

モンスターはやられると、霧になって消えてしまった。

モンスターの撃退には成功したが、白雪姫ではないのに、ストーリー上ここで王子様が通りすがりに出てくるわけがない。

とっさに、魔法使い(の見習い)役になっていたシェインさんが流れるようなアドリブで、


「通りすがり方、その勇ましさ、とても助かりました。

あなたも舞踏会に向かうのですか?

それでは、道中お気をつけください。」

「・・・は、はい。

失礼しました。」


突然のアドリブに、棒読みで違和感しかない王子様の僕は舞台袖へと退場した。

舞台は、そのまま軌道修正をしながらもストーリー通りに進んでいった。

ここからは、見せ場のクライマックス。

シンデレラと王子様の別れのシーン。

モンスターが現れ、撃退しそしてガラスの靴を落としていく。

12時の鐘が鳴ると、予定通りモンスター出現。

クルル・・・クルル・・・

やはりさっきもそうだったが、モンスター役のクラスメート達の雰囲気がおかしい。

そしてなんと言っても、さっきの退場の仕方が予定にはなかった。

どんな仕掛けをしているのだろう・・・

ただ、ここはもうすでにモンスターが現れてしまっている。

今は予定通りのストーリーが進行している。

今更変更はきかない。

いつからか手にしたままの白い本を片手に、モンスターに挑もうとしたが、横でレイナさんが、


「さっきから、やり過ぎじゃない?!

あんた達、私の劇を邪魔しないでよ!!」


と客席には届かないくらい声でつぶやいた。

怒った感じになってしまったシンデレラは、そのままモンスターに向かっていった。

そんなシンデレラに便乗するかのように、ネズミの使用人も一緒になってモンスターに突っ込んでいった。

戦い終わると、最後の一撃と言わんばかりにシンデレラのケリが炸裂した。

しかし、モンスターはまたしても霧になってどこかに消えてしまった。


「・・・あ・・・」×3


勢いあまったシンデレラのガラスの靴は、予定と大きく変わり、観客席の奥側かなり遠くの方へ飛んでいった。

とりあえず、進行通りにシンデレラとネズミの使用人は、舞台袖に消えていった。

しかし、さっきまで魔法使い(見習い)だったシェインさんが、ひょっこり現れて、


「王子!!

この靴は、先ほどの御嬢のモノでは?

この靴を頼りに、妃候補を探しましょう!!」


といって、客席に消えていったガラスの靴を回収してきてくれた。

これで、なんとかストーリーを続けられる。

王子役の僕としても、ほっと一息。

こうして、ガラスの靴を履き、王子とシンデレラはお城で幸せに暮らしましたとさ。

めでたしめでたし・・・

「これにて、演目『シンデレラ』は終了となります。

ありがとうございました。」


終わりのアナウンスが流れると、皆一斉にどっと疲れが出たのか、ぐったりと方を落としながら教室へ向かって歩き出した。

そんなクラスの疲れた雰囲気に突然現れたモンスターが1匹、


「いや~、一時はどうなることかと思ったけど、代役がいたなんて聞いてなかったよ。

ただ、なんとか終わって良かったね~。」


といって、モンスター役のファムさんが教室に戻るみんなと合流した。

皆一同に不思議そうな顔を浮かべている。

それはそうだ。

この人がいなかったのなら、あのモンスター達はいったい誰?というか、なんなんだったのだろうか。

そもそも、ファムさんは露店で色々食べ過ぎ、お腹をこわしさっきまでずっとトイレに閉じこもっていたそうだ・・・

疑問が残る中、全員一度教室に戻った。

教室には、担任のロキ先生が待っていた。


「やぁやぁ、皆お疲れさま。

さっきはどうなることかと思ったけど、僕の隠し芸がこんな所で役に立つとはね。

僕としてもうれしいよ。」


といって、ロキ先生は、さっきのバケモノを出したり消したり・・・??

手品のような光景に、クラスメート全員はただただ驚き、開いた口がふさがらないといった感じだった。

この先生は、謎が多いけど、いったい何者なのだろう・・・

あっけにとらわれていた皆に向け、先生の口にした言葉が、僕はこの2日間で一番驚いた。


「明日で学園祭も終わるね。

みんな、後は楽しもう!!

そして、明後日からの中間テストにしっかり備えるように。

以上!解散。」


「えーーーーーーーー!!」


僕は、本当になんてタイミングで転校してきてしまったのだろう・・・



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僕の人生、最悪の2日間 風見☆渚 @kazami_nagisa

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