第7話 良い毒・悪い毒
毒って薬にもなるんだぜ。
まあ、逆の言い方もありますが、毒と薬は表裏一体だったりします。
…で、いわゆる「毒親の毒」が良い毒だったのか、悪い毒だったのかを判定するには、とてつもなく長い時間を要します。
たとえば、私だったら、最近「あれは悪い毒だった!」と気がついた(毒としての効き目はあった)ので、飲み始めてから30年くらい経ってようやくわかった…ということになります。
〇良い毒ってなんだよ
私の知る限り、大人になってからも、毒親の被害に苦しんでいる毒こどもたちは、悪い毒に侵されている人なんだろうな、というのが感想です。
では、良い毒って何か。
たとえば、親に夢を反対されて家出して頑張って有名になったミュージシャンだとか。親が天然ボケだったばかりに、フォローせざるを得なくて、しっかり者になった人だとか。
「まあ、あんときは大変だったけど、今となっては感謝してるよね、親に」
みたいなことが、遅効性の良い毒なのではないでしょうか。
同じことで言えば、学校の先生に叱られることがありますが、正直、叱られた方は良い気分ではありません。
しかし、後に「そうか、あそこで叱ってくれたから、その後の失敗を防ぐことができたんだ!」とか「あのとき、私のことを心配して叱ってくれたんだ!」みたいな、後日心から感謝できることって多いです。
このように、「飲んでみて苦かっただけど、時間が経ってみると良い薬だった」みたいな、良薬口に苦し的体験は「良い毒」と言えるのではないでしょうか。
〇毒親の毒は薬にはならない
では、同じように、毒親の毒も後日感謝できるのかな…?と思い返してみます。
もしかしたら、たくさんあるエピソードの中には、それなりに感謝すべきことも含まれていることもあるでしょう(毒親はそのときの気分で発言することが多いので、時に良いことも言う)。
たとえば、うちの母親は「あんたのために言ってあげてるんだよ?」という言葉が口癖でした。
それは「雨が降るから傘を持っていけ」という日常のことから、「あんたみたいな子と友達になる人がいるんだね、あんたの友達はみんな変人だ、みんなに迷惑かけてるって気が付いていないのはあんただけだ」などの呪いの言葉まで、すべてに一貫して「あんたのための発言」でした。
では、この「あんたの友達みんな変人」に関して、大人になった今考えてみても、1mmも良い効果があったとは思えません。
私自身も、友達に迷惑をかけたくない、という思いが強いですし、いっしょに歩けば友人に迷惑をかける、と思い込んでいました。
実際、私の同級生(母親にも紹介したことがある)が27歳の若さで亡くなったとき、母親に「Yちゃんが亡くなったんだ」という話をしたら、面識があるにも関わらず「へえ?それで?」と返され、「そんなことよりさ~」と話をすり替えられたとき、「ああ、この母親は今まで悪意を持って毒を飲ませていたんだな」と実感しました。
悪い毒だ、ということを知った上で飲ませていた。
「あんたのために」
なぜでしょうか。
苦しませるために。苦しむところを見るために。
虐待する人の気持ち、というのは様々で、うちの場合は母親自身のコンプレックスがあり、それを私に投影していた部分もあるようですが(自分の分身である子を虐待することによって、自分を傷つけて満足しようとする「自傷行為」タイプ)、私は母親自身ではないので、冷たいようですが、とても迷惑な話です。
少なくとも、赤ん坊の時点では、親から飲まされたものが毒かどうか判別する術がありませんから、信用ならない親であっても、信用して飲まなければならない、というのが現実です。ここから多くの悲劇が生まれます。
当然、「親から虐待されたから強い大人になれた!お父さん、お母さん、ありがとう!」ってパターンもあるんだと思いますが、そこまで昇華できる人はどれくらいいるでしょうか。
飲んだ本人が自覚するまで時間がかかる上に、飲み続けなければならない。このての毒や薬は、とても厄介なものです。
つづく
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