第11話「暗殺事件」
私は意を決して、医務室へと飛び込んだ。
そこには、アレックスの首へと短刀を突きたてようとしていたフェルナがいた。
ひかり「フェ、フェルナ!?」
フェルナ「……ひかり」
ひかり「な……、何してるの?」
答えなんか分かりきっている。それでも、私は彼に聞いてしまった。
彼は、ひどく冷たい声で、その言葉を紡いだ。
フェルナ「アレックスを殺そうとしていました」
ひかり「……ど、どうして? みんな、納得したじゃない!! あんな、羽根を切り落としてまで、ロイスに忠誠を誓うアレックスの姿に!!」
フェルナ「私はやはり、彼を許すことは出来ないし、信頼も出来ないのですよ」
ひかり「どうして、そこまで……、そこまで、憎むの?」
フェルナ「ペルティナ族だから……ですよ」
ひかり「なんで? 種族だけで、どうして決められるの? フェルナはもっと冷静で、人よりもっと色々な事考えてるじゃない!」
フェルナ「そうですね。こんな事、いつもの私じゃない」
ひかり「何か、理由あるんだよね?」
フェルナ「……ひかりは勘が鋭いですね」
フェルナ「私はいわゆる、放蕩息子で好きなことをやらせてもらっていました」
フェルナ「両親が殺された時も、遊び放題で、帰って来た時には全てが終わっていました」
ひかり「……だから?」
フェルナ「両親が居なくなって、私は王位を継承しました。でも、私なんかにつき従う兵など数えるほどしかいなかったんですよ。その時、私は思い知らされた。こんなにも無力であることを……」
フェルナ「バルド王もロイス王も王位を継承した後でしたからね。私とは状況が違った。戦い、城を守った……。私だけが、無能な王だった」
ひかり「だからって、アレックスを殺すこととは別な話じゃない!」
フェルナ「いや。ここで私が彼の首を取れば、兵たちの信頼を取り戻せるんですよ」
ひかり「そんなのフェルナの勝手じゃない! あなたの勝手でアレックスを殺すなんて間違ってる! そんな事のためにアレックスを利用するなんて、ずるい!」
フェルナ「ずるいと言われようと、卑怯といわれようと、仕方ないんですよ。私の国を守るためには!!」
フェルナの刃がきらめいた。そして、アレックスへと向かう。
ひかり「だめ!!」
その瞬間、アレックスが身を翻し、刃をかわした。
アレックスは私たちの会話を聞いて、起きていたのだ。
アレックス「フェルナ王、あんたが俺を利用するのは勝手だ。けど、俺の命はロイス様のものだ」
ひかり「……アレックス」
アレックス「ロイス様に相談しろ。俺の命をあんたにくれてやってもいいか」
フェルナ「それで、ロイス王がいいと言えば、お前は命を捧げるのですか?」
アレックス「喜んでさしだす」
//SE:ドアの音
バルド「……こんな夜中にデートか?」
ロイス「フェルナ王、これは一体どういうことか?」
ひかり「バルド、ロイス!!」
バルド「そいつの処刑は一時休止となったはずだぜ? なんで勝手に殺そうとしてんだ?」
ロイス「フェルナ王、申し訳ないが、今はアレックスの命を差し上げることはできない」
フェルナは苦々しい顔をして、二人を見つめた。
バルド「さて、理由は聞かせてもらったが、こいつを殺す理由としちゃ不足すぎるな」
バルド「……あんなにも、お前がアレックスの処刑を望むのは分かったぜ」
ロイス「感情論で動いていたのは、あなたの方でしたか」
フェルナ「二人には分かるはずはない。この私の無力さが……」
バルド「甘えたこと言ってんじゃねーよ。俺達だって、同じ無力さを感じてんだ。城に居ながら兵も町も守れなかったことの惨めさ!!」
バルド「ロイス王だって、そんな事言やーしねーけど、同じ思いなんだ」
バルド「お前だけが悲劇を背負ってんじゃねーよ! そんなに兵の信頼を取り戻したきゃ、少しでも多くの者を説得して見やがれ! ったく、馬鹿やろうが……」
ロイス「私もバルド王の言うとおりだと思う。私たちも兵達の信頼は低下している。あなただけの悩みではない」
二人はフェルナを睨みつけると、一つため息をついた。
私も張り詰めた空気が和らぐのを感じて、息を吐き出した。
フェルナ「……」
アレックス「ロイス様、ありがとうございます!!」
バルド「お礼なら、お嬢ちゃんに言うといいぜ。こんな夜中に大声で騒いでたんだ」
ロイス「ああ、すぐに分かって駆けつけられた」
アレックスはぷいっと顔をそむけながら小さな声で言った。
アレックス「……一応、礼は言っておくからな」
こうして、アレックス暗殺事件は一応の幕を閉じたのだった。
けれど、この事件はここからが本当の始まりだったのだ。
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