第7話「眠れぬ夜」

今日も色々なことが多すぎて眠れない……。

羊を数えても、目をつぶってもダメだ。

仕方ない。また、月夜でも見に行こう。

そっと、部屋を抜け出し、甲板へと出て、壁に背中を預ける。

なんて綺麗な世界なんだろう。

空には島が浮いていて、綺麗な月が淡いクリーム色をしている。

こんな世界が戦争をしているなんて信じられない。

そう思いながら、空を見つめていると、不意に背後から音がした。


//SE、ぎい


私の背後で床のきしむ音がした。

思わず振り返るとそこには、人影が……。


アレックス「……なんだ、お前か」

ひかり「アレックスか……、びっくりしちゃったよ」

アレックス「なんだよ、アレックスかって! ボクが来ちゃいけないか?」

ひかり「ううん。幽霊かと思って」

アレックス「その年でまだ幽霊を信じてるのか? 子供だな」

ひかり「……ところで、アレックスはどうしてここへ?」

アレックス「月を見に来ただけだよ。なんだか、寝付けなくて」

ひかり「そっか、私と一緒だね」

アレックス「……ふん」

ひかり「アレックス……、もしかして、私のこと、嫌い?」

アレックス「嫌いだよ。よく気がついたな」

ひかり「……どうして?」

アレックス「ロイス様があんなにお願いしているのに、お前は何もしないからだ」

ひかり「だって、出来ないものはしょうがないじゃない」

アレックス「神様だろ、何とかしてみろ」

ひかり「……そんな事言われても」

アレックス「ロイス様のためなら、ボクは何でもしてあげたいのに、何もできない」

ひかり「……アレックスは本当にロイスが好きなんだね」

アレックス「ボクは誰よりロイス様を尊敬しているんだ」

アレックス「だって、ロイス様は人族の中で一番偉いんだぞ」

アレックス「空の民は色々な種族がいて、それぞれ王様がいるけど、人族の王様はロイス様だけなんだ」

アレックス「人族にだって種族はあるけど、その種族全部の王様なのはロイス様だけなんだ」

ひかり「ふーん」

アレックス「それに、ロイス様はボクを助けてくれたんだ」

アレックス「ボクは空の民のなりそこないなんだ。ほら」


アレックスはリュックサックを下ろすと、自分の背中を見せてくれた。

その背中に生えていたのは、申し訳程度に生えている翼。


ひかり「アレックスは人族じゃなかったんだ……」

アレックス「恥ずかしいから、普段はリュックサックで隠してるんだ」


アレックスは再び、リュックサックを背負いなおした。


アレックス「ボクは生まれてすぐに両親に捨てられたんだ」

ひかり「……どうして?」

アレックス「空の民にとって、空を飛べないって、とても恥ずかしいことなんだ。だから、そんな息子を持ちたくなかったんじゃないかと思う」

ひかり「……アレックス」

アレックス「でも、ボクは捨てられてよかったと思う。だって、ロイス様と一緒にいられたし、これからも一緒にいられるんだから」

ひかり「アレックスは本当にロイスが好きなんだね。もう、いっそのこと、結婚しちゃえば?」


アレックスは顔を真っ赤にして怒り始めた。


アレックス「な、な……、なんてこと言うんだ!! ロイス様を侮辱するな!!」

アレックス「白き神だろうと、お、怒るぞ!!」

ひかり「あ、あぁ、ごめん。ごめんってば」

アレックス「ロイス様は尊い方なんだぞ!」

ひかり「わかった、分かったってば」

アレックス「お前もロイス様の凄さが分かったなら、早く《大いなる翼》を出して、ロイス様を助けるんだぞ!!」

ひかり「ん~、そんなこと言われても……。私、《大いなる翼》ってのが何処に埋まってるかも分からないんだよ」

アレックス「それを探すのがお前の仕事だろ!!」

ひかり「あ、そうなんだ」

アレックス「なんてお気楽な神様なんだろう……」

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