第5話「月夜の晩」

夜になり、自室の布団へと潜り込んだ。

今日は色々なことがあった……、と今日の出来事を思い出す。

疲れてしまっているけど、何故か眠れない……、眼がさえてしまっている

どうやったら帰れるのか、自分は本当に死んでしまったんじゃないのか?

色々な不安が胸にのしかかる。

私は夜になったら、夜の月が昇ってくるという言葉を思い出した。

その話をしてくれたアスナも今は遠い人のように感じる。

夜の月が私の心を沈めてくれるかもしれない。

私は月を眺めてみようと思い立ち、部屋を抜け出し、甲板へと足を運ぶ。


//暗転

//甲板


ああ、思ったとおりだ。

夜の月は一つで、私のいた世界と同じだ。

少しだけ安心してしまった。

このまま、本当に元の世界に帰れたらいいのに。

もしかしたら、あっちで起こったように、飛び降りたら、戻れるんじゃないだろうか?

もし、死んでしまっても、もういいや。

だって、私のせいで人が沢山死ぬなんて……、もう、誰か死ぬなんて嫌だ。

それが例え、敵だとか味方だとか、どっちでも。

私はふらふらと甲板のふちに足をかけて、虚空に足を踏み出した。


//SEひゅ


あの時のような落下感はない。

誰かが私の手を握っている。

それは、暖かくて、力強い……。

ロイスの手だった。


ロイス「なにしている!?」

ひかり「……離して」

ロイス「馬鹿な事を……。今、引き上げる」


ロイスはひょいと私を引き上げると、私を睨みつけた。

強く肩を掴み、揺さぶりながら怒気を荒げる。


ロイス「何していた? どうして、あんなことをした?」


私はロイスから視線を外して、囁くような声で言った。


ひかり「もう、死にたい」

ロイス「……どうしてだ? 俺がしつこくしたからか?」

ひかり「違う……。私のせいで、戦争が広がるなら、死ねばいいと思ったの」

ロイス「戦争が広がったのはお前のせいではない」

ロイス「戦争を広げているのはペルティナ族であって、お前ではない」

ひかり「だって、今日、人が一人、私のせいで死んだんだよ!!」

ロイス「……偵察兵の事か? あれはお前のせいではない。船とアルニカ島の為だ」

ひかり「だって、だって、私が行けば、あの人助かったんでしょ?」

ロイス「……お前が行けば、希望の光が絶たれる。お前は唯一大いなる翼を呼べる者だ。お前の力があれば、この世界を救えるんだ。この世界から戦争を無くせる」

ロイス「例え、多くの犠牲を払ったとしても、それだけの価値がお前にはある」

ひかり「でも、その為に人が沢山、死んじゃったら、意味がないよ」

ロイス「その沢山の命の上に戦争を終結させるしかない。もし、人が自分のせいで死ぬと罪悪感があるのならば、生きて自分の役割を果たせ!」

ロイス「《大いなる翼》を見つけろと言ってるわけじゃない。生きて、少しでも人の役に立てと言っているだけだ」

ひかり「……うん。ごめん、そうする」

ロイス「ちゃんと寝ろ……」


私はロイスさんの言葉を背中に受けながら、自分の部屋へと戻って行った。

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