第6話「本当に助けたのは・・・」
「聞こえなかった?一回、死んでちょうだい」
こともあろうに、レイナはアラジンに向かって死んでくれと言ったのだ。
『前』のアラジンが命を賭して僕たちを守ってくれたと言うのに、『今』のアラジンに死ねとは酷すぎる。
「レイナ!」
僕の怒気に溢れた言葉をレイナは、はねつけるように睨む。
レイナは本気だ。
そして、レイナはちいさな短剣を青髪の美女に渡す。
「そして、殺すのは・・・、あなたよ?人魚姫さん」
人魚姫!?
そう、レイナは青髪の美女を人魚姫と呼んだ。
確かに人魚姫の話では好きになった人を殺さないと海の世界には戻れない。
だからって唐突すぎるし、万が一人魚姫じゃなかったら・・・。
レイナはこっそりと僕に耳打ちしてきた。
「大丈夫よ。っていうか、色々と手は回しているんだから。この短時間で大変だったんだから」
「へ!?」
間の抜けた声を出しながら二人の様子を見守ることにした。
もちろん、他のメンツもこの事態に息を飲んで見守る。
空気が凍ったようにシーンと静まり返った。
かつーん
乾いた音を響かせて、短剣は美女の手から滑り落ちた。
「できない・・・、そんなこと・・・」
「愛するアラジン様のいない世界なんて、私には無意味・・・。それならば、泡沫に消える方が私らしい・・・」
それは鈴がなるような美しい声だった。その姿に違わぬ声に一番驚いていたのは人魚姫本人だった。
「・・・こ・・・声が・・・」
得意げにレイナが『魔法のランプ』を取り出して、ハンカチでこすった。
もくもくと煙が現れ、魔神は楽しそうに答えた。
「ご主人様、ご満足いただけましたか?」
そう、人魚姫にかけられた呪いはランプの精によって、解かれ人魚姫の声は戻っていたのだ。けれど、それを本人に言ってもきっと信じない。だから、わざとレイナは悪役を演じて見せたのだ。
「っていうか、エクス達が騒いでるから気づいたんだけどね」
どうやら、僕たちの出会いから何から何まで二階から見ていて、『魔法のランプ』に人魚姫の呪いを解くように願っていたらしい。
「もう、びっくりさせないでよ。それなら早く言ってよ」
僕はびっくりして心臓が飛び出しそうだった。『前』のアラジンがあんな事になったというのに『今』のアラジンにも同じように死ねなんていうとは思わなかったから。
それも、驚きではあるのだけれど、僕はもう一つ驚いていた。
それは人魚姫の声があの『声』であったことだ。
「君があの時の声の主だったんだね」
僕が霧の中で聞いた、『助けて』のあの声は確かに、人魚姫の声だった。
人魚姫は気恥ずかしそうに言った。
「あの声を・・・きいて下さるなんて思ってもいませんでした」
僕はあの声の主が誰なのか、ずっと探していた。
だって、あの時、あの声を聞かなければ、アラジンは『また』死んでいたから。
今度は助けられたのは人魚姫のおかげだ。
全く分かっていない、一同に僕は説明した。
「霧の中で「助けて」って声が聞こえたんだ。それで、戻ったら、アラジンが倒れていたんだ」
アラジンは感極まったように、人魚姫に抱きついた。
「・・・この人が本当の命の恩人だったんすね!俺、惚れたっす」
まるで『前』のアラジンのようだ。惚れっぽいところとか。
それでも、まるで気にしていない様子で人魚姫は嬉しそうに言葉をかえす。
「アラジン様・・・、私も、一目見たときから貴方様をお慕いしてしまいました」
人魚姫は涙をこぼして、嬉しそうにアラジンを抱き返す。
「でも、私では貴方様を浜辺に上げることしかできず・・・、申し訳ありません」
「そんなの気にすることないっす!人魚姫が助けを呼んでくれなければ、俺は死んでいたっす!」
わんわんとなく人魚姫にレイナがハンカチを渡す。
「さっきはごめんなさいね。もう泣かないで。ほら、とっても綺麗な顔がだいなしよ?」
人魚姫はハンカチを受け取り、涙をふいた。そして、とてもとても嬉しそうな顔で笑った。
「ありがとう。私に言葉をくれて・・・」
しかし、そのレイナの表情は嬉しいような悲しいような複雑そうな顔だった。
そんな様子を見ていたシルバーはやってられるかと言わんばかりに、宿屋の外へと歩いて行ってしまった。
案外、こういう話に弱いのかもしれない。いや、逆かも・・・。
そんなくだらない思考を止めるようにレイナが僕、シェイン、タオにしか聞こえないように言った。
「カオス・ジムを倒すわよ」
僕からレイナの表情は見えない。でも、その表情は憂いに満ちているのだと、僕は思わずにはいられなかった。だって、レイナは『調律の巫女』である前に女の子で人間だから。
一方その頃・・・。
カオス・ジムは悔しさに唇を噛み締めた。
「なんであいつが生きてやがった・・・」
ダン!と拳で机を思い切り叩いた。
「俺はあいつを超える・・・、いや、超えたんだ。なのに、過去の亡霊が何しにきやがった!!」
荒々しくその辺にあるもの全てに八つ当たりをする。
肩で息をしながらも、彼の怒りは収まらない。
確かに、あの小僧ーーーアラジンは縄で縛って海に投げ入れた。
確かに、あの野郎ーーーシルバーはバッサリと背中から斬って海に投げ捨てた。
なのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのに・・・。
彼らは生きていた。
コンコン。
控えめに船長室のドアがノックされた。
「入れ」
カオス・ジムがそう言うと、入ってきたのは・・・。
シルバーだった。
「シルバー!」
「いやいや、なに、お前に斬られたときは死ぬかと思ったがねぇ、親切なご婦人が助けてくれて、このとおりピンピンしている」
「何しにきやがった!」
「お前に宣戦布告しにきた。お前が何を考えてるか分からないが、今回の相手は大物だぜ。お前にゃ無理だ」
「俺に無理なことなんてない!」
「これだからお子様は・・・」
呆れたようにシルバーが笑う。
「まあ、挑みたきゃ挑みな。でも、断言してやるぜ。お前は負ける。どんな強い力も、どんなに手下を増やしても、お前は負ける」
「うるさいうるさい!!」
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