第5話「一回、死んでみて」
とにかく、この魔人と『ランプ』について絶対に秘密にすることを約束させて、シルバーを仲間に加えることとなった。
宿屋の人たちはいなくなってしまったが、とにかく疲れていた僕たちは失礼ながらも二階の客室を使わせていただくことにした。
もちろん、シルバーにも二階の客室に泊まってもらうことにした。
万が一にもジムに報告に行かれたら、大変な事になってしまう。
そして、例の『ランプ』だけれど、また盗難されては困るとレイナが預かることになった。
翌朝。僕たちはそれぞれ、支度をして一階の食堂に集まった。
もちろん、昨日の騒ぎがあったからなのか、ヴィランにされてしまった人たちがいないせいか、食堂は無人だった。
レイナ、シェインは時間がかかるようで、男だけで食堂で待っていると、唐突に食堂のドアが開いた。
昨日の騒ぎで、まだこの食堂にくる人がいるとは・・・。
と、僕が食堂のドアに目を向ける。そこにいたのは、目を疑いたくなるような美人が息を切らしながら、笑っていた。
青く長い髪に透けそうな程白い肌の美しい女性は一目散に駆け出すと・・・。
アラジンにタックルをかまして、椅子に座っていたアラジンを押し倒した。
そんな様子にニヤニヤと悪い顔で笑いながらシルバーが口を出した。
「若いってのはいいなぁ。どこの色町でひっかけてきたんだ?」
アラジンはひっくり返ったまま、目を白黒させて、美人を見た。
「いや、俺、こんな美人とは初対面っす!」
「こんな美人なら、俺、絶対覚えてるっす!」
綺麗な女性は、アラジンにしがみついたまま愛おしそうに笑っていた。
しかし、ここまで、一言も喋らないのだ。
僕は悪いとは思いながらも彼女に質問した。
「あの・・・、もしかして、言葉が喋れないの?」
彼女は腕の中のアラジンを逃すまいと格闘しながらも、僕の問いかけにコクコクと頷いた。
「ええと・・・、レイナ達が降りてくる前にとりあえず、アラジンを離そうか」
僕がそう言うと、彼女は素直にアラジンを開放した。
ここにきて、また謎人物が増えてしまった。
僕の頭の中はこんがらがってしまいそうだった。
それから数十分後、レイナとシェインが支度を終えて二階から降りてきた。
そして、明らかにカオスと化した惨状を目にして、ため息をついた。
なにせ青髪の美女が嬉しそうにアラジンの隣に座り、そんな様子を僕とシルバーが困り顔でみている・・・、といった状態だったのだから。
レイナは僕に向かって、視線を向けてくる。
「これは一体、どういうことかしら?」
言っても信じてはもらえないとは思いつつも、僕は重い口を開いた。
「それが、僕たちにも何がなんだかわからないんだ。突然、この女性が飛び込んできたと思ったら、アラジンにべったりで・・・」
レイナはずかずかと歩みを早めると、彼女に向かって言った。
「あなた何者?なんで、ここにいるの?なんの用があるの?」
レイナの問いかけに青髪の美人は困った顔で、アラジンに抱きついた。
アラジンはぬいぐるみのように女性に抱きしめられ、僕たちと同じように困った顔だ。心なしか、少し嬉しそうではあるけれど・・・。
「とにかく、どこの誰だか名乗れないのなら信用できないわ」
そんなレイナの言葉に青髪の美人はしょんぼりしてしまった。しかし、気をとりなおして、手近のメモに言葉を記した。
『あなたたちにきがいをくわえるつもりはありません』
それを信用するほど、僕たちは修羅場を潜りぬけてはいない。
レイナがメモを見ながら聞いた。
「あなたは何者なの?」
また、青髪の美女がメモに記す。
『わたしのしょうたいはいえません。いうことをきんじられています。でも、けっしてあなたがたのてきではありません。ただ、あらじんさまのおそばにいたいだけです』
そのメモを見て、シェインが口を挟んだ。
「姉御、この人、悪い人じゃなさそうですよ?」
僕もそれに賛同する。
「もし敵だったら、僕らはとっくに襲撃されているよ」
そんな楽観主義の僕たちをみて、レイナはため息をついた。
「じゃあ、あの出口で待ち構えてるヴィランは一体、なんだっていうのかしら?」
こと、恋愛において不得意で話についていけなかったタオがここぞとばかりに楽しげに立ち上がる。
「よっしゃ、朝の運動といくか!」
シルバーはどこから調達したのか新聞を見ながらぼけっとしている。
状況はカオスにカオスを混ぜ合わせてしまったような状況だった。
「とにかく!あのヴィラン達を片付てからにしましょう!」
【戦闘:ヴィラン】
ヴィランを退治した僕たちは改めて、青髪の美女に話を聞くことにした。
「きみは何をしにきたのかだけでも答えられない?」
青髪の美女は困ったようにメモに書き記した。
『あらじんさまがしんぱいでみにきました』
アラジンが心配か・・・。でも『アラジンの想区』にこんな登場人物なんていたっけ?
「安心して、僕たちが守るから」
『あらじんさまのすがたをみれて、さいごにはなしまでできてうれしかったです」
レイナは恋敵でも見るかのように矯めつ眇めつ彼女を見つめ、そして、結論に至ったようだった。
そして、アラジンを呼び寄せてこう言った。
「あなた、一回、死になさい」
それは至極真面目な顔で、それは到底冗談を言っているような顔には見えなかった。
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