第4話「カオス・ジムとの再会」
夜も更けてきたため、僕たちは港町の宿屋に一泊することにした。
一階は飲食店になっていて、二階は客室という一般的な宿屋だ。
そこの一階の奥まった場所を占拠して、僕たちは作戦会議を始めた。
「とにかく、この『想区』の要である『ランプ』を見つけないことには・・・」
レイナが頭を抱えながらそう言うと、思い出したかのようにアラジンが控えめに言った。
「あのー、その『ランプ』に心当たりあるんすけど」
「なんでそういう、重要なこといわないの!」
「確かに、俺が悪い魔法使いに騙されて取りに行った、『ランプ』なら積荷の中に・・・」
僕たちは最悪の想定をしていた。
しかし、同時におかしな事に気がついた。
そう。『魔法のランプ』がありながら、カオス・ジムが使っていないことだ。
「もしかして・・・」
レイナ、タオ、シェインも同じ考えに辿りついたようだった。
ちいさな声でコクコクと頷くと、タオが結論を口にする。
「カオス・ジムのやつ・・・、あれが『魔法のランプ』って知らないんじゃ・・・」
それに異を唱えたのはレイナだった。
「でも、それなら盗品として売りさばかなかったのはなぜかしら?」
レイナの言葉をうけて、アラジンが口を挟む。
「薄汚れていたし、捨てちゃったんじゃないっすか?」
「えー!?」
なおもアラジンは言葉を続ける。
「あの『ランプ』、外見は薄汚れてるし、売れないと思ったんじゃないっすか?」
「ありえる・・・。メッキに騙されるやつだし・・・」
タオが呆れたように付け加える。
「じゃあ、どうする?お嬢・・・」
「もう、こんな時ばっかり・・・、仕方ないわ。とにかく、カオス・ジムを捕まえて『ランプ』をどこに捨てたのか聞き出しましょう」
レイナがそう言った瞬間。
ドガン。と大きな音を立てて、食堂のドアを開く音が響いた。
そして、その人物こそ僕たちが一日かかって探していた人物・・・。
ジム・ホーキンズ。いや、今はカオス・ジムといった方が正確だ。
カオス・ジムは屈強な男を従えて、食堂の一番大きなテーブルについた。
ジムの噂を知っている者はそそくさと店を出て行く。
接客係りは固まってしまい、ジムの方へと行かない。
そんな様子に腹を立てた様子でジムは怒気を荒げて言った。
「おいおい、この店は客に注文させない気か!?」
接客係りは急いでジムの元へと駆け寄り、注文を受け付ける。
まさか、最後の最後に出てくるとは思いもよらなかった。
タオが小声で、レイナに指示を仰ぐ。
「お嬢、どうする?今ならカオス・ジムを倒せるかもしれないぞ?」
「確かに・・・」
一般人は外に避難してしまったので、ヴィランに変えることはできない。
取り巻きがヴィランになったとしても、少数。
「もし『ランプ』の力を知ったら大変な事になるわ。とにかく、下手に出て、先に『ランプ』を回収しましょう」
僕たちは念のため、それぞれ『導きの栞』を手に立ち上がった。
先に言葉をかけたのはレイナだった。
「あなた、ジム・ホーキンズよね?もし良かったら、取引がしたいのだけど」
ジムは胡散臭そうにレイナを見て「は?」とだけ言った。
しかし、レイナは食い下がる。
「あなたが奪った積荷の中に『ランプ』があったはずなんだけど・・・。ちょっとした事情で、私たちはそれを探しているの」
その言葉を聞くと、ジムは大声で笑いだした。
「あーっはっはっは、あの薄汚いランプならシルバーに持たせてやったよ!」
「シルバーまでいるの!?」
「生きてればな」
にやっと笑って、ジムはそう言った。
「今頃はあの汚いランプと海の底さ!」
はーはっはっはと高らかにジムが笑った。
謎の人物が笑いを咬み殺しながら、乱暴に食堂のドアを開けた。
「くっくっく・・・、そいつはどうかな?」
そこにいたのは、紛れもなくシルバーだった。
「「シルバー!?」」
にやにやと悪い笑みを浮かべながら、シルバーは語った。
「生憎と悪運ばかり良くてな。死にぞこなったのよ」
そう言って、懐の『ランプ』を取り出し、こう言った。
「そこのお嬢ちゃん、このランプが欲しいんだろう?それなら、まずは俺の味方になっちゃくれねーか?」
ぼわん。ぼわん。と、店内にいた住人たちがヴィランへと変わっていく。
今はとにかく『ランプ』がジムに渡るという最悪の事態を避けなければならない。
仕方なく、僕たちはシルバーの味方をすることになってしまった。
【戦闘:ヴィラン】
ヴィランとの戦闘が終わった頃、辺りを見回してもジムの姿は無い。
どうやら、ヴィランとの戦闘の間にジムを取り逃がしてしまったようだった。
しかし、それ以上の問題が僕たちの前に立ちはだかった。
そう。海賊シルバー。
彼は僕たちの探していた『ランプ』を持ちながら、その力を使わなかった。
恐らくはシルバーもまた『ランプ』の力を知らないのだ。
シルバーは『ランプ』を興味なさげに見ながら言った。
「お嬢ちゃんたちはこの『ランプ』を探してたんだろう?」
こちらが答えに窮していると、シルバーはにやりと笑って提案してきた。
「この『ランプ』はくれてやる。ただし、引き換えに俺を仲間に加えてくれ」
「え!?」
「なんでこんな『ランプ』にこだわるのか知らないが、俺はジムに狙われてる。そんで、お前たちも明らかにジムに狙われた。敵の敵は仲間ってな。仲良くしようぜ」
シルバーの本意はわからない。しかし、ここはシルバーの意見に同意するしかない。そうしなければ、『ランプ』は手にはいらない。
レイナは訝しげにシルバーを睨みつけたが、仕方なしに同意した。
「わかったわ。そのかわり、そのランプを早くこっちに渡しなさい!」
「おっと、渡すかわりに、この『ランプ』の秘密を教えてくれ」
「だめよ。ランプが先よ。ランプさえ渡してくれたら、秘密を教えるわ」
やれやれと言いたげにシルバーはランプをこちらに放り投げた。
放り投げられたランプをアラジンはキャッチした。
「で、これどうすればいいんすか?」
僕、レイナ、シェイン、タオ全員ががくっとこけた。
とにかく、このアラジンは魔人の事を知らないんだった。
「とにかく、そのランプを磨いて!」
アラジンは渋々、服の袖でごしごしとふいた。
その様子にシルバーも呆れた顔をしている。
「そんなランプ綺麗にしたって、いくらにも・・・」
しかし、そのシルバーの言葉は尻すぼみに消えていった。
ランプからもくもくと煙のようなものが吐き出され、巨大な魔人が現れた。
そして、魔人はアラジンに頭をたれた。
「ご主人様、なんなりとご命令を・・・」
「おいおい、冗談だろ・・・」
さすがのシルバーもこんな宝があるとは思ってもいなかった様子で、腰を抜かさんばかりに驚いていた。
そんな宿屋の外、船が停泊している港。船のそばの海水が、ぱちゃんと跳ねた。
しかし、その事に誰も気づく者はいない。
見張り番すらうつらうつらとフネを漕いでいる。
そんな中、鈴のなるような声が祈るように呟いた。
「ああ、アラジン様は無事かしら・・・」
その声には何もできない自分を悔やむような響きが混じっていた。
「私も人間になれたら・・・、アラジン様のお側にいられたら、どんなに幸せなことなのでしょう」
「私も人間に・・・」
ちゃぷん。水音と共にその姿も声も消えてしまった。
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