第六章 「灯し火」

これまでというもの、喧嘩をした時には事あるごとに、私は彼に、“あなたは女心が解らない”と言い続けてきた。

その時、彼は彼で、“そんなことはない。僕は女性に優しい男だ”と反論をしていた。


でもこうした状況になって初めて、ふたりの間に気持ちが通じ合い、私自身があなたの気持ちを心から理解出来て、あなたはあなたで私の気持ちを最優先して考えてくれているということに、気づかされたわ。

もっと早くこうした大切なことに気づければよかったのにと思うと、とても複雑な気分。


昨日、お見舞いに来てくれたあなたが、顔を合わせるなり真っ先に深く詫びてくれた。


「もっと普段から僕が君のことを気づかってさえいれば、この病気だって初期症状から気づけたかもしれない。

今更後の祭りだけれど、どうしてもそう思わずにはいられないんだ。

僕はこんな自分を嫌悪しているよ。

とにかく君にそのことをきちんと謝っておきたいんだ。

すまない、本当に許してほしい。」


少し戸惑いながらも、私は私で感じていることがあったので、彼の気持ちがよく理解できた。


私は彼に悪戯っぽく笑ってみせた。


「そんな風に思ってくれてたのなら、少しは病気になった甲斐もあったかな?

な~んてね嘘よ嘘。

あなたがとても変わったのは側にいる私が一番よく解ってるわ。

私にはもうあまり時間が残されていないかもしれないけれど、あなたの温かい愛を思いっきり感じられて今も昔もかわらずとても幸せよ。

だから、変に思いつめて自分を責めたりしないでね。

私はいつものままの優しいあなたが大好きよ。」


でも、どんなにふたりの距離が近づいていても、神様は私たちふたりの間を容赦無く引き裂こうとしている。


そのタイムリミットを私は日に日に身にしみて感じていた。

その期限を知ることできたら・・・でも、それが分かったら分かったで、私の心はどうにかなってしまうだろうか?


先生をはじめ周りの人たちは、私がそれを知ったら絶望に変えてしまうだろうと恐れているみたいだけど、私は希望の時間に変えたいと望んでいた。


大切な人生の残りの時間を無駄にしないため、ためらうことなく、そして心置きなく命のともし火を燃やし尽くすために。




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