第五章 「慕情」

今朝の彼女はいつもよりも顔が痩せて青白かった。

気掛かりで片時も離れていたくない。

こうして会社の机に向かっていたところで、心配で仕事が手につかない。

頭に彼女のことしか入ってこない。

上司にも先ほど呼ばれ、叱られる始末だったが、正直そんなことすらもどうでもよかった。

首になったらなったで、また他の仕事を見つければいい。

だけど、僕にとっての彼女はこの世にたったひとりしかいない最も大切な存在なんだ。

彼女がいなくなる?考えるだけでうすら寒くなる。もしも、だなんて想像するだけでも怖しかった。

君にいつもの明るく輝くような笑顔を見せてほしい。

彼女がほんのり微笑むだけでも、僕のまわりの世界はあたたかい光に包まれ、幸福で満ち溢れてくる。

僕が地球ならば、君は燦々たる太陽だ。生命の源となる太陽が存在しない地球など、どう考えても単独で生きていける筈がない。

君と僕の輝きを放っていた未来を、このまま夕闇に閉ざされていく様に終わらせたくはなかった。

君ひとり絶望を抱えさせたまま寂しく死に旅立たせる訳にはいかない。

どうかこの先も夢と明るい希望をもって生き続けてほしい。

君の肌に温かみが差すというのなら、僕の身体から血でも体温でも幾らでも抜き取っていい。僕のすべてを彼女に分け与えたい。

彼女の健康を取り戻すよい方法があるのならば、西へ東へどんな名医が相手だろうと相談しに出掛けよう。

たとえ相手が神や悪魔だろうと構わない。今直ぐにでも取り引きを持ち掛けたかった。

でも、誰からも声は掛からなかった。




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