第四章 「心騒ぎ」

夜遅く、病院へ結果を聞きに行ったはずの彼がようやく戻ってきた。

たまたま古くからのお友達と鉢合わせし、懐かしさもあって今まで食事をしていたのだという。


彼は嘘をつくのが下手だ。

私が彼の目を見つめると、耐えきれずに瞳が泳ぐ。

多分、本人もそれをよく解っている。

なのに、わざわざ私にその嘘をつくだなんて、余程のことに違いない。

一体どうしたのだろう?

独りで帰りを待っている時からじわじわと湧き上がってくる胸騒ぎが、どんどん膨れ上がり大きくなる。心臓の上から押さえつけられて、胸が締めつけられる様に息苦しい。



彼がどこか話し辛そうに、でもやけに明るく装って口を開く。

「それと先生とね、夕方話して来たよ。結論から言うと、正直あまりいい話じゃなかったんだ。」


「大丈夫よ。」

私は覚悟を決めて次の言葉を待つ。


「実は君の病気は急性骨髄性白血病の可能性があるそうなんだ。まあまだ確実な状況ではないので、しばらく入院して様子見しながら、治療していきましょうって言われたよ。」


ああ、やっぱり。私の場合、悪い予感だけはとてもよく当たるの。


でも、いつも忙しいはずのあなたが、これからはなるべく一緒にいようねって言ってくれた。

これほど嬉しいことはなかったわ。

いつまでもあなたと一緒にいたい。

これだけのことなのに、今はとてもとても大切なことの様に感じられる。

あたりまえだったことがあたりまえではなくなってしまいそうで、すごく怖い。

でも、涙など流さない。流さないって決めたはずなのに私なんで泣いてるんだろう。ちぇっおかしいな。

病気になんか負けない。絶対に治してみせるわ。

この先も大切なあなたと一緒に過ごしていくために。

ただそれだけの幸せのために。




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