第二章 「最後の一葉」
彼は優しい人だから、何も話してはくれないけれど、もう薄々解っている。
私にはあまり時間は残されてはいないことを・・・。
あの庭の葉っぱがすべて落ちるまで私は生きてはいられない。なぁ~んてね。
感傷的になるのは私の柄に合わないわね。
ポジティブに受け止めたりはできないけれど、残りの時間を大切にして過ごしたいと思うの。
ふたりでよく散歩したあの公園、しばらく行けてないなぁ。
あともう一度だけ、あの燃えさかる様に美しい紅葉の映える水面を見たかった。
あの人は憶えているかしら?
ううん、彼ならいつまでも忘れないだろう。
私がいなくなったら、きっと寂しがるだろうなぁ。
そりゃあ私だって彼に忘れてほしいだなんて言いたくない。
いつまでもいつまでも私の存在を憶えておいてほしい。
あなたと私が一緒に過ごした大切な時を思い出してほしい。
でもね、たとえ私がいなくなったとしても、あなたにはあなたの人生が続いていくのよ。
時を凍らせたまま、そこで立ち尽くして動けなくなってもらいたくはない。
あなたなりの新しい生き方を見つけて、自分自身の足でその道を歩いて先へと進んでほしいの。
私の死が、あなたの重荷になる様なことだけはいやだわ。
私とともに生きてよかった。
そう感じてもらいたい。
たまにふと私のことを思い出してくれたらいいな。
そんなことばかり考えていたら、ふと素敵な考えが頭をよぎった。
あなたとの思い出と、あなたへの想いを込めて、私がいなくなった後もあなたへ伝わる様に、この携帯に気持ちを託すわ。
長く寒ざむしい冬が終わり、あたたかい春がくるころには、愛するあなたの悲しみがどうか癒えますように・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます