第10話 これが貴方の為なら
私からはできないの
だから、
貴女から私を突き放して
私に・・・傷を残して。
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「はる?」
「おはよう、麻衣」
「……その人、一緒?」
「え? あ、うん
同じバスケサークルの子」
「一緒に来たの?」
「うん、今日この子のレポート手伝う事になってて」
「…そうなんだ」
「麻衣は読書? 勉強?」
「う〜ん、読書かな?
レポートやるのに寝てて良いの?」
「昨日まで合宿だったからね
疲れが溜まってるのかも。
起きたらレポートやる予定だよ」
「ふーん、じゃさ
それまではるは私の相手してよ」
「相手? ふふ、良いよ。何する?」
「お話しよ?」
「何話す?」
「合宿どうだった?」
「練習は凄いハードだった、
自分の体力の無さも
技術の低さも痛感したし
まだまだ下手くそだな〜って」
「ねぇ、それ2年でレギュラーの人が言う台詞じゃないよ?
他の人からしたら嫌味だよ(笑)」
「えっ⁉︎ いやそんな嫌味とかじゃなくて
まだまだ自分では納得出来なかったって言うか、
もっと努力しなきゃって刺激されたって言うか」
慌てたはるが焦ってそんな事を言い出すから
「…うるさい」
ほら、やっぱり起きちゃった
「あ、ごめん由依
起こしちゃった?」
「うん、はるうるさい」
「ごめん」
別にそんなに大声出してた訳じゃないのに
その子にうるさいって言われて
あからさまにシュンとして凹むはる
もう少し “2人” で居たかったのに残念
「……はる」
「ん? あ、高校の同級生の
「初めまして」
「で、こっちが大学で同じサークルの
「初めまして」
違うでしょ、はる
ただの同級生じゃないよ私達
「“同級生”だけ?」
「えっ?」
「なんでもない」
初めて見た
何か悪い事を企んでいるかの様な
麻衣の笑顔は初めて見た…
“お互いの初恋の相手”
なんて言えばきっと由依は驚いちゃうよ
「はる、レポートやる」
「あ、うん。始めよっか」
「はる、私もここで読書して良い?」
「由依、良いよね?」
「…うん」
「良いって」
「ありがとう、はる」
昨日は全然寝れなかった
本当は早めに寝て体調も
万端にしたかったのに
「なに着て行こう…」
はるに会う時は、
練習着かジャージだから
私服なんて殆ど見せた事ない
見た事ない
学部が違うから校舎違うし
学内でも会わないし
……もうなに着ればいいの
結局、雑誌に載ってた
“このコーデなら間違いなし!”
って言うやつをそのまま着ることにした
この決断をした時にはすでに
夜中の2時過ぎ
急いでお風呂に入って
スキンケアも入念にして
気付けば3時半過ぎ…
いざ寝ようとベッドに入っても
寝れなかった
好きって認めてから
はると “2人” で会うことに
こんなにドキドキするなんて
「私らしくない…」
目を閉じれば
はるの優しいあの笑顔が浮かんで
それにまたドキッとして
「……寝れない」
結局殆ど寝れずに朝になった。
服に合わせて髪も少し巻いて
普段よりしっかりメイク
間違いなしって書いてあったから
たぶん変じゃないはず…
大丈夫
たぶん大丈夫
きっと、変じゃない
なんとか図書館まで来たけど、
だめだ、眠い
「おはよう」
あぁ、はるは朝から爽やか
せっかくお洒落して
髪も巻いてメイクもしたのに
眠くてしっかりはるを見ることもできない
「レポートやる前に少し休もっか」
ごめんね
私のレポートなのに…
あぁ、はるの声がする
誰かと話してるのかな…
誰?
はると楽しそうに話してる人、
学内で見たことある人だ
はるの知り合い?
へぇ、高校の同級生なんだ
でも
なんかこの人嫌な言い方してた
“同級生だけ?”
他になにがあるんだろう…
元恋人・・・とか?
分かんないけど、
もしそうならなんか嫌だ
ってか、
元じゃなくて “恋人” とか?
えっ、嫌だ
嫌だ
早くレポート作成始めよう
はる、もうあの人と話さないで…
私とレポートやろう?
そう思ってはるに声を掛ければ
あの人は、はるにここに居て良いか聞いてて
はるは私にそれを確認する
私が嫌って言ったら
断ってくれたのかなって
一瞬思ったけど、
きっとはるは断らない
だって、はるは優しいから。
あの人が困ったり悲しむ事は
きっとしない。
はる、私に嫌って言う選択肢は無いんだよ?
はるの優しさを私は知っているから
そんな優しさが好きなんだけどね。
「由依、ここの文章使ったら?」
「ん? どれ?」
「これ、分かりやすい例えじゃない?」
「確かにこれ良い」
「あとは~、こことか」
「う~ん、ここはもう少し噛み砕きたい」
「う~んじゃ、こんなのは?」
「あ、それいい」
元々少しずつレポートを進めていたから
案外順調な由依のレポート作成
麻衣も隣でずっと本読んでるし
なんだろう、
今この空間が凄く幸せだなって感じる。
読書に飽きたのか、
麻衣はたまにうちにちょっかいを出し始めた
うちの太ももにそっと右手を置くとか
うちの左肩に自分の右肩をくっつけるとか
ちょっとしたスキンシップ
麻衣が隣に居るって実感できるから
この些細なスキンシップが嬉しい
「ごめん、ちょっとトイレ」
「うん、じゃ少し休憩にしよっか」
「うん、ありがとう」
そう言って由依はトイレへ。
ゴンッ
「痛ッ、え? 麻衣?」
「かまってよ…」
トイレへ向かう由依の後ろ姿を見ていると
麻衣がうちの左肩めがけて頭突きをしてきた
なにこれ可愛い
「本読んでたんじゃないの?」
うちの肩におでこを付けたまま
「本よりはるがいい」
なんて言われたら思わず笑みがこぼれる
「麻衣」
「なに?」
「可愛すぎるよ」
「ッ‼」
「照れた?」
「だってはるが急に…」
「ずっとうちの肩にくっ付いてるの
凄く可愛いな~と思って」
「んッ…」
「ふふ、また照れた?」
「…はる」
「ん?」
麻衣の方を向くと
目を潤ませながら真っ直ぐに
見つめられる
綺麗な瞳が潤んで
その奥にはなにか熱でもあるかのような
なにかを求めるかのような
「はる」
好きだ
この人が好きだ
まるで心を持っていかれるような感覚に
襲われていると
気付けば2人の唇は触れていた
「ッ! ごめん!」
ハッとして麻衣から離れようとすれば
「…行かないで…」
両手でうちの頬を包み込む様にして
麻衣はそう言った
だめだ
そう思っていても
麻衣の声が
麻衣の目が
麻衣の手が
麻衣の体温が
逃してくれない
あぁ……ごめん
麻衣に対してなのか
あの彼氏に対してなのか
美侑に対してなのか
自分に対してなのか
誰に対して言っているのかも
分からないまま
心で “ごめん” と繰り返しながら
また唇が重なる
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