第8話 夜道
仕事帰りの夜道、街頭の少ない川沿いを、コツ、コツと擦れた革靴の音をさせて歩く。
耳をすませば川のさらさらとしたせせらぎが聞こえてくる。
今日も仕事を一段落させた、達成感と安心感を引き連れて、多少の疲れを引き摺って。
空を見上げると、月を探してしまうのは私だけだろうか。
少しだけ赤みがかった、黄色い月が出ている。
上弦の三日月だ。細長くかかるその月を眺めながら、一体、これ程に艶のある月を見ることはあっただろうかと思う。
この月を見ながら人々は何を思うのだろうか。
仕事で疲れ果てたような顔をして、重たい体を引き連れたようなご壮年もまた、この月を見れば、生きた甲斐もあると思えるのだろうか。
三日月の真ん中に黒く細く雲がかかり、だんだんと厚くなって、すっぽりと覆い隠す。
私は川沿いから外れて、この都市から外れた住宅街を通る大きな一本の道を歩む。
街灯が照らす道、しかし、心は寂しさに包まれる。コツ、コツと歩いていきながら、横をバスが追い抜いていった。
時折、空を見上げては何かを待つ。
そうすると、天は分かったかのように頷いてくれるものだ。
雲が開く。あの見事な三日月が、淡く輪郭を表して、ここに在るぞと、私に告げる。
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