第7話 蝉

じゅじじじじじと鳴くあのうるさい音を聞くと、夏が来たと誰しも思う。

何でまた、あんなにうるさいのに、風流だなと感じるのか、これは不思議でたまらない。うだるような夏の暑さの中、彼らの声を聞いていると本当に煩わしい。

しかし、どこか清々しくて、元気が出るなとも思う。不思議なものだ。

ミーンミーンとは聞こえないが、日本ではそう表現する。

「おーいこっちだよ!そこのカワイイ子!俺の歌を聞いてくれよー!」と言ってるわけであろう?

とんだナンパものである。

そう言えば、この間、マンションの壁を蝉の幼虫が登っていくのを見たのだ。

じり、じり、じり。

見ているこちらが、急かしてしまいそうな速度で登るのである。

仕方なく、こちらも、別に頼まれてはいないが、足を留めた。

じり、じり、じり。

私が見ているからと言って、別段、変わり映えのない速度で登るのである。

じり、じり、じり。

しかし、不思議と心が落ち着いて行く。

誰に見られようとも、彼らが何かを登っていくスピードは変わらない。

彼らにとっては待ちに待った時がもうすぐそこまで来ている。

それから私は別の目的を達するために、離れたわけであるが、その帰り道に、また寄ってみた。

すると、あんなに高くまで登って、止まったまま、白い肌が背中の割れ目から見えているのに気がつくのである。

そして、全てが露わになったとき、じっと、体の硬質化するのを待って、いよいよ恋人探しのナンパ野郎になるのであろう。

じっと、時を待って、彼らは長い長い年月を経て、いよいよ空に飛び立つのであろう。


そう思うとナンパ野郎に頑張れよと言いたくなるのであろう。

さあ、夏が来た。

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