第2話 小川

大人になって子どもの頃を思うことがある。

近所に流れる川の名前は市内ではそこそこ市民権を得ている。その川の橋に立って、川の流れを見ていると、子どもの頃を思いだす。


川の淵にはたくさんの命がひしめき合っていた。その川をのぞけば、ハヤの姿が見えたり、ヤゴがいたり、貝が少しだけ顔を出していたりして、遠くからでは気づかないものを映し出してくれる。

ただ、川辺の草むらは危ないものも住んでいる。蜂が来るし、蛇が来る。だから、怖さもひめているんだ。そんなふうに子どもの頃は思ったものだ。危険、だが、未知の世界。

だれも知らない、小さな世界。その中に溶け込んで、ただただ満足そうに、誰にもわからないように、ニコニコするんだ。


そして、私は大人になって、そんなことが出来なくなった。不思議なことだなと、ただ、思うのである。

小さい頃はあれだけすんなり入れた世界は今、遠くの世界になってしまった。

あのキラキラした、未知の世界。知らないことが沢山あって、知りたいことが沢山あった。ただ、貪欲に失敗と成功を重ねることが出来た時は、いつまでもそこにはなくて、責任と重圧の中に、何かが縛られ、固まっていく。こうして大人になることほど哀れなことはないなぁ。

ほら、耳よ、聞いてくれ。

じっと澄まして、音も立てずに、周りの声を聞いてくれ。

草擦りの音、虫の音、鳥の鳴き声、葉の落ちる音……。

そこらじゅうが生きている。生きていることを感じてくれ。

そうやって、今となっては一生懸命聞くしかないのだ。

世界中の小さな音、世界中の小さな心。

喜びも、悲しみも、怒りも、優しさも。


全てのものを拾うのだ、拾うのだ。ただただ、ひたすらに。


そして、それを拾い集めて、新しい物語を作ろう。

世界中の誰もが、ハッピーエンドの物語。


心よ、燃えよ。


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