9 誰かの夢



 他人が見た夢の話ほど退屈なものはない。

 初めにそう言ったのは誰だったのだろうか。


 もしそうなら“私”はとても退屈な存在だった。


 なにせ“私”は、

 他人の夢を見て、

 他人の夢の話を聞き、

 他人の夢を語らなければならないのだから。


 退屈に退屈が自乗され続ける無限大の退屈。

 宇宙規模の退屈。

 宇宙を満たす謎の物質Xはダークマターでもなければエーテルでもない。

 退屈という名前の誰かの夢だ。


 それでも“私”は退屈を感じなかった。

 幸運なことに、“私”は自分が誰であるのかを知らない。


 蝶が人になる夢を見ているのか、

 それとも人が蝶になる夢を見ているのか、

 誰もその答えを知らないように、

 “私”は自分が誰であるのかを知らない。


 だから“私”は夢を見る。


 誰かの夢を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る