ボール・デッド
「予想はしてたけど、埃っぽいな。まぁいい」
女連れの男は女の衣服を脱がし始める。まさぐるように粗雑な手こなしで要領を得てはいない。
神社の外に止まっている、白い軽ワゴンから降りてきたカップルは神社内の社に入ると淫らな行為を行うらしいことは明らかだ。
先日より、敷地内にとりつけられた監視カメラより、4か所の映像を逐一監視しているわけだが、このカップルは3日連続でこの午後8時にヤリ場にやってくるのだ。
わし自身、この現場を目を離さず逐一見守ってるわけではない。
監視カメラは神社入り口に設置されている対人センサーが感知することにより、映像として保存されると同時に、警告音としてモニターから、わしに伝達が来る。管理人たるや防犯には手を抜かれないからな。
最新式の防犯カメラは音声もリアルタイムで流れてくるので、社内での行為の音声は醜態として、わしに送られてくる。このような行為を独り占めできるのは何とも言えない感慨だが、これもアダルトサイトにでもアップロードすれば金にでもなるんじゃなかろうかとも思う。
だが、画像は不鮮明で、肝心のヤっている、描写が映っていない。ヤる時だけカメラの範囲から逸れるからである。彼らはカメラがあるなんぞ、知りもしもないだろ。それ故にこの場での行為に及んでいるのだ。
しかし、わしの若いころなんぞ、このような青姦なんぞ夢も夢の話やったが今のモンは本当に破廉恥というか、場所をわきまえんな。
そこに一つの好奇心が生まれた。 わしがこの神社に明日この時間に乗り込み、彼にちょっとした、おちょくりを入れてやろう。以前にネットで買った、赤外線暗視カメラを持ってな。用心として、スタンガンも所持していけば用意周到だな。今となってはそのことで頭がいっぱいになった。
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仕事を終え、ビールを飲み、スタンガンの整備をする。ビリビリと刺激的な音が耳朶について心地よい。明日はあのカップルがあの場でやる、ラストプレイとなるだろう。ショックで男が先に逃げて、呆れた彼女と不仲になり破局なんて結末もあるかもな、想像するだけで、笑みが治らなかった。
翌日、日が出ている間は漫画喫茶で暇をつぶし英気を養った。
日が沈みかける午後6時過ぎ、神社に近い町の喫茶店に行き、ナポリタンを食べる。
スマホを付け、最近流行りの○○モンDOをプレイ。にしても、これが流行っとるとはどーいうこっちゃ、外でスマホをのぞき込んで、歩いて、画面上の情報概念を獲得して、楽しむなんて、ロボットみたいじゃないか、本来の人間性からかけ離れているような気がしてならん、といいつつ、ローンチ直後はやりこみにやりこんだわけだ。あれだけアメリカで騒ぎになってりゃやらんわけにはいかんだろ、実際日本人はアメリカで流行ったものはやってみるってのが戦後の慣例や。
午後8時前、自家用軽トラに乗り込む。
田園地内に入ると、街灯がなくヘッドライトの明かりのみで頼りない、道幅も狭く、慎重な運転が求められた。
前方右側にいつも監視をしていて、ヤリ場となっている、神社が姿を現した。手前の砂利が敷かれた駐車場に駐車して、誰もいない助手席より、リュックサックを手に取り、降車。リュックから、スタンガンそして、カメラ、暗視ゴーグル、赤外線ライトを取り出す。
現場に忍び足で進むが、とあることに気付いた。いつもの場所に車が止まっていない。
わしが第一カメラと呼ぶ地点には、この時間3日連続にて、軽ワゴンが止まっていたはずだが、今日に限ってはその空間はぽっかりとしている。
さすがに落胆せずにはいられなかった。なんぞや。1日をこのことに絞って行動してきた。1日を棒に振ったといってもいいだろう。
わしは不意にスマホを手にし、現実逃避的思考で、○○モンDOをひらく。
ため息を出、身がかすかにふるえる、
「モンスポじゃねえか」
画面に映されたモンスターの数々。モンスタースポットとされる地点には数多のモンスターが神社敷地内に蝟集している。驚きと興奮でわしは貪るように、モンスターを集めた。が、充電の残量はあっというまに体感として、数十分でそこを尽きた。惜しくもバッテリー等は持ち合わせていないことを後悔せざるを得ない。この場を去りたくない一心か意味もなく右往左往した。
靴先でものを転がした感覚が生じ、懐中電灯を照射する。ボールや。
3次元のこの世にして、これほど2次元を思わせるデフォルメな球体は紛れもなく、○○モンDOに登場するアイテムのボールだ。
手触りはつるつるしていて、一点にボタンのような部位がある。
すると、周りが突如として、明るくなり、目を閉じた。その刹那目を開けると、周りの光景が一変していた。
未知の森のようなところにいた。神社のような宗教施設に長時間滞在したせいか神秘的な体験をしているのか、それとも、夢か。なんて思ってもみるが、感覚的に夢だとすれば、今現在起きるということを脳に伝令しているのにもかかわらず、現実世界に戻らないということは、この現状こそ、リアルということになる。
意味がよく理解できない中で、追い打ちをかけるかのように、奇怪な輩が目の前にいる。
カンガルードラゴンである。
威勢のいい、ガルドラは数メートル先でわしのことを眼中に射ている。敵対的な雰囲気を露呈させているが、なんらかの理由で躊躇しているようにも感じる。
そして、わしの右手にはボールがある。 このボールはモンスターを捕まえる道具である。
まあ、なぜ、このような状況に直面しているかはわからないが、このボールでガルドラを捕獲するシチュエーションなことは馬鹿なわしにでも合点の行く次第だ。
砲丸投げ選手さながら反時計回りにクルクルっと回転してわしは威力のあるボールをガルドラに投じた。軌道は我ながら美しい。学生時代ショートだったわしはファーストにどれだけ、送球を繰り返してきたと思っている。
ボールはガルドラに着床し、弾み、ボールにガルドラが吸収される。
ボールは地面にバウンドもせずに、着地すると、くいっと一回、右に揺れる。左にも揺れる。
「よし、捕まったようだな」
と言い放った直後、ボールから身を離した、ガルドラは口腔内より、破壊力のありそうな光線を放射してきた。
わしはその光が何をもたらすのかは理解できる。
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