俺達は、揺り篭の中で殺意を燃やしながら。 02
まどろみから醒めるように、俺の意識は浮上した。目を開けると見知らぬ人影が見下ろしている。
「やあ始めまして」
爽やかを集めて固形にしたかのような風貌の青年が目の前にいた。
「ああ、こちらこそはじめまして」
朦朧とする頭で返事して俺は身体を起こす。
どの位長い間眠っていたのだろう。世の中はどの位変わったのだろうか。俺は周りを見渡す。安置所にしては広い。ほかに休眠している仲間が居ないのは、俺が危険人物として隔離されているからだろうか。
「……今は何年だ?」
「2055年だよ」
それはおかしい。俺が眠りに付いた年と同じじゃないか。
そこで気付いた、広い広いと思っていた安置所が、室内などではなく満天の空の下だということに。
「さっき回収員と修繕員は帰ったよ。七尾遠里も運ばれた」
「ああ……?」
蜜を垂らすように、最後に見たのと同じ月が輝いている。俺は自分の外殻(ハードウェア)を確かめた。さんざん地べたを転がりまわったように白かったはずのシャツは破れ、血に汚れ泥に塗れ襤褸と成り下がっている。だが、失われたはずの腕と足はしっかりと再生していた。
「凄まじいモーニングコールだったね。思わず飛び起きちゃったよ」
柔らかな目元を揺らして笑う青年。
「あんた、もしかして……」
目の前の青年は懐かしそうに少し離れた場所に建つ校舎を見つめている。
「あの人はまだ、俺を待っていてくれているかな?」
誰だ、などとは聞くまでもなかった。
「南栄春過……」
七尾遠里にID(そんざい)を乗っ取られ、休眠状態にまで追い込まれていたはずの春過が、再び稼動し目の前に立っている。俺は驚きで目を見開いた。
「うん。今回はお世話になったね」
「なんで動いてるんだ……?」
一度エネルギーを使い果たして休眠状態に入れば、ちょっとやそっとで目覚める事は無い。春過が消えたのは一年半前、再起動するには早すぎる。
「未散くん、君の……いや君達のおかげかな」
「どういう……」
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