エピローグ シュウエンリピート
俺達は、揺り篭の中で殺意を燃やしながら。 01
怠惰を尽くした夏休みが終わり、だが夏の暑さは収束しないまま、また新学期が始まる。
俺は汗に張り付く前髪を払いのけながら空を見上げた。何年経とうとこの星の夏は変わらない。窓枠に切り取られた澄み渡った青空は、相変わらず凶器のように全世界の上空に広がっている。遥か上空を漂流する母船さえも捉えられそうな透明度の空を、俺はぼんやりと見つめていた。
「夏休み前に出してた宿題、さっさと後ろから回収しなさいー」
教師の声を皮切りに座席の最後尾から宿題リレーがスタートする。第一走者の俺は、朝早くにやっつけで仕上げたデータの詰まった小型メモリを前の席へと回した。
「……ちゃんと四十個有るわね。じゃあ始業式があるから体育館に移動するわよー」
艶やかな長い髪を背中に垂らした教師は、薄くアイシャドウの塗られた涼やかな目元を生徒全員へと向け指示を出す。先頭をきってドアから出て行く際に揺れた薄手の生地のスカートが、逃げいく蛇の背のように音も無く廊下へと消えた。ざわざわと他愛ない話をしながら出て行く生徒達に混じり、俺も体育館へと廊下を進む。サウナのような暑さの体育館で聞く校長の演説は、茹った頭に全く入ってこないだろう事は請け合いだが、燦々と日の光が降り注ぐグラウンドでやられるよりはいくらもマシだ。
「そうだ、今日はコインロッカー・ベイビーズにしよう」
「それ、どんな話?」
焼け付きそうな校舎の影を見下ろしながら何となく呟くと、後ろから背中を小突かれた。振り向くと、鳶色の旋毛が視界に収まる。
「僕には涼しくなれる話を勧めてほしいな」
首筋に滲む汗を拭いながら、花折が笑いかけてきた。
「ホラーでも読んどけ。一気に汗も引くだろ」
そう、時はまだ2055年――残暑。
俺はのうのうと生き長らえてここにいる。
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