僕が緩やかに眠りにつくまで、君は踊って待っていて 11
霞がかって尚、苦味だけが根強く残る過去を噛み締めて呑み込んで、俺は告げる。
「遠里。お前の言いたい事も、やりたい事も理解できる。だけど、もう同意はできねえんだ」
「なぜですか!?」
「嫌いだった。滅ぼしたかった。憎かった。お前の持つ感情を、俺も確かに内包している」
「ならば……」
「二十年だ。二十年、この世界を呪い続けた」
遠里の周囲で発生する振動音が不協和音を刻む。彼の心を表すように。
「笑ってくれていい。それが、たったの数週間で、もういいかなって思えちまったんだよ」
俺の前髪が跳ねた。千切れ飛んで部屋に舞う。
「騙されないでください」
「騙されているとしても良いよ。そう思ってる」
次は頬に痛みが走る。碧い血液が暑い夏の空気に触れ、粘ついて流れ出す。
「……貴方は、本当の気持ちに気付いた方が良い」
桜が散るように、儚く笑う遠里。だがその本質は何よりも冷徹で残酷だ。
「何をだ?なんて聞かないでください。自分が一番分かってるんでしょう?」
俺は震えた。
「貴方という宇宙人が、この子を食い物にして終わりの無い消閑に努めているということを」
俺は思わず声に出して笑ってしまった。遠里の手が演説する政治家のように空を切る。
「貴方は、死んでいるように生きていたくなくて、この子にしがみ付いているだけなんですよ!」
「それがなんだっていうんだ?」
暇潰し?確かに俺はそう思って花折の錬金術師探しを手伝った。神隠しに首を突っ込んだ。そして知った。
トライアンドエラー。
壊さないで、解き解す(ほぐす)方法を。
試行錯誤。思考錯綜。
迷いに迷い込んで、踊りに踊り狂って。
笑って、呆れて、怒って、苦しんで。
そうやって、他愛無い事を喜ぶ事を。
そうやって、空虚さに心を溶かす事を。
そうやって地球人の曖昧さにかどわかされることも。
地球人の優柔不断さに振り回される事も。
「少なくとも」
壊して潰して全てまっさらにするよりは。
「俺は友達が生きている間は、安穏とした平和を壊す気は起きねえよ」
例えその世界が、花折にとって死ぬほどつまらない世界でも。
俺にとって、死ぬ事もできないほど唾棄すべき世界だとしても。
壊さなければいけない世界より余程良い。
花折を壊す事より、余程良い。
「……貴方は既に、死んでいたのですね」
肩が抉れた。地球よりも青い青い血が飛び散った。酸素に触れて、赤く酸化し床へと飛沫が落ちる。
「残念です。そのゴミを殺して、“希望”すり潰して、先輩とあの頃の世界を取り戻したかった」
遠里が腕を払った。その仕草には見覚えがあった。
なんだ。遠里、お前は俺の部下の××××か。
だが、それを敢えて指摘はしなかった。
その事実は、これから起こる戦いに、破壊において何の因子にもならないだろうから。
遠里の目には絶望があった。理解してもらえなかったと拗ねる思いも窺えた。そうだ、お前は昔の俺の背中に何時も羨望の眼差しを向けてくれていた。
そんなお前に、中途半端な事はできない。
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