僕が緩やかに眠りにつくまで、君は踊って待っていて 10

 滅ぼすか、共存かの二択。

 その平和さに憧れて、我々が初めて行った選挙は、猿真似もいいところの出来栄えだった。

「ふざけるな!!こんな方法で何を決めるというんだ!?」

 俺は怒りのままに触覚器官(ライン)を激しく振るわせた。その怒りが伝わったのか、円卓に座る隊長たちに動揺が走る。

「あわてるな。お前は我々の種族の本能を信じているのだろう?」

 第一位(ファースト)が俺の怒りを押しとどめるように緩やかに揺れる。

「ならば、この選挙という地球人の用いる意思決定法を試しても、結果は変わらんと思うのだが?」

 第一位(ファースト)の言葉に第二位(セカンド)が静かに頷く。

「けっ……てめえは一寸前の戦闘で娘が戦死してんだろ。それで日和ってねーか心配してるだけだよ」

「口を慎め!!お前はたかだか第三位(サード)だぞ!」

 第五位(フィフス)の隊長の一括も受け流し、俺は揶揄するように体を揺らめかせた。

「べっつにーてか俺は今此処で戦って序列を引っ繰り返してもいいんだぜ」

「……埒が明かんな。選挙を開始する。地球に降下後、我々が侵略を行うことに賛成か反対か。反対が過半数を取得し殲滅を行わない場合は、我々は地球人に同化してその生き方に少なくとも数百年は準じる。投票するしないは自由だが、しなければ棄権とみなすからな」

「へいへい」

 俺は触覚器官(ライン)を震わせて渡された珪素化合物に賛成の文字を刻むと箱へ投げた。残り二人も同じ箱へと票を入れる。

「では、開票する」

「ってか、こんなすぐ開けるんだったら口頭でよくね?」

「馬鹿者、口頭だと誰がどちらに票を入れたかがわかってしまうだろう。……今回は票が少ないから効果は発揮せんかもしれんがな」

 第一位(ファースト)が触覚器官(ライン)で箱を撫でると、透過分析が出来なかった箱の側面が、分析可能な物質に変化した。

 その結果に、俺は愕然とする。

「そんな……なんでだよ!?」

 票は、賛成1:反対2で地球人殲滅は否決されていた。

「どういうことだよ!?なんで!お前まで!!」

 俺は第二位(セカンド)に烈火のごとく掴み掛かろうとしたが、周りに控えていた兵隊達によってたかって拘束された。

「いけませんな。自分がどちらに投票したかを分かるような素振りを見せては」

「あくまでもこの結果が我々三人の総意だ」

 俺の叫びに二人はやれやれといった顔だ。

「お前等……嵌めやがったな」

 母星を自身の手で滅ぼし失った我々。自分達の存在に疑問を持ち出している者が居る事にも気付いていた。だが俺は新しく母星とできる惑星を見つけ、その星を完膚なきまでに侵略し制圧すればそんな杞憂など取り払えると思っていたのだ。

 まさか新しく生存できる星まで、滅ぼすことを恐れる者がいるだなんて。

「くっそ――!!この臆病者共が!!我々は戦う種族だ!!滅ぼす種族だ!!他人と馴れ合うような生き方などできないっ!!」

「果たしてそうかのう?」

 俺の言葉を遮って、第一位(ファースト)は触覚器官(ライン)を持ち上げた。

「少なくとも、この円卓にいるものはそうは思っておらぬよ。なんならば、もう一度票数を増やして決を採るか?」

 その言葉に並々ならぬ自身と、事前の下準備からくる余裕を感じて、俺の身体はわなわなと震えた。

 こんな、こんなもの我々ではない。

 謀略を尽くし力を振るわず権力を振るう、こんなやり方。

「どうやら、君は今回の決に対して大きな不満があるようだな」

「困りましたな、彼は一人で地球の半分を殲滅できましょう」

「それでは彼は降下させられない」

「では、彼一人を宇宙に置き去りに?」

「いやそれも不安だ」

 勝手に物事が決まっていく。暴力ではなく言葉で、俺の処遇が決められていく。

 俺は目の前が真っ暗になっていくのを感じた。理解不能なものに思考を塗り潰されていく恐怖。

 触覚器官(ライン)を振るい何時ものように周り一帯を分子にまで破砕することも出来たが、不思議とその一本さえも自分の意思で動かすことは出来なかった。

「……では、戦闘能力の低いハードウェアに思考を移行して……」

「いや、それでも彼の闘争本能ならあるいは……」

「ならば思考施錠(ロック)を掛けておけば良い。もしものときの備えにもなろう。例えば……と……の同意が無ければ……」

「おお、それは妙案だ!」

「彼の地球での任務は……まあ書物からの情報収集ぐらいが打倒だな。彼は地球人の事をもっと知るべきだ」

「彼はまだ若い、この星にも訓練所のような所があるのならばそこに通わせて同じ程度の情緒性を持つ地球人達と触れ合うべきだろう」

 そこから先は、もう覚えていない。

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