僕が緩やかに眠りにつくまで、君は踊って待っていて 07

 正直、俺は春過たる我々の一員の事も、高岡教員とのことも、二人の今後の事も割とどうでもよかった。

 問題は、一時凍結にまで追い込まれている花折を助け出すこと。それだけだ。

 だから、俺は春過が現在休眠状態に入り、次に目覚めるのが何時なのかわからないなんていう不確定でマイナスな情報は敢えて口に出さなかった。

 ずるいとでも酷いでも、いくらでも後から罵ってくれればいい。

「そ……それは……」

 言いよどむ高岡教員に詰め寄る。

「大体検討はついてるんだ。あんた、匿ってるだろう?いや、脅されてんのかな?」

 途端に高岡教員の顔が蒼白になる、後ずさろうとする彼女の細い肩を逃がすまいと俺は掴んだ。脳内に異星間交遊禁止の警告(アラート)が絶叫するように木霊するが、今はそれを意識から切り離して無視する。黙れよ。逃がしはしない。

「そういう顔するのは止めてくれ。あんたは、全部分かっててフシギクラブに依頼を振ってたんだろう?」

 この攻め方は酷いと自分でもわかっている。実際は、俺と花折の因子が彼女達二人の事情に悪影響を及ぼしただけ。彼女等は被害者というだけなのに。

「私は何も知らなかった……!彼は、春過が消えてすぐに現れた。自分を春過の仲間だといって、任務を放棄して学校で消えた春過を探しに来たんだと」

「それを、信じたのか?」

「じゃあ何を信じろっていうの!?春過が宇宙人である以上、彼が宇宙人である以上、何も分からない私はそれに縋るしかなかった!!」

 涙ながらに怒鳴りつけてくる高岡教員。

「だから私は、自分の管理下にあるあの部屋を与えた。そして、彼に言われるまま事が大きくならないよう【神隠しを吹聴すると自らも神隠しに遭う】という噂を広めた。彼はあそこにもう一年以上棲み付いてる――その内分かった、彼が春過を探す気なんててさらさら無いんだろうってことは。春過が消えて、得体の知れない彼にとり憑かれて、私は……限界だった……」

「そこで、あんたは助けを求めた訳だ」

「ええそうよ。せめて春過だけでも探し出そうと、フシギクラブなんていうお誂え向きな駆け込み寺にね」

 高岡教員は俺のシャツを掴んで崩れ落ちそうになる身体を支えている。

「私を助けてくれ宇宙人……神隠しから、春過を救い出してくれ」

 高岡教員は悲痛な声を漏らす。まるで自分だけが被害者であるかのように。

 しょうがない、彼女は彼女で忘れているのは分かっている。だけど俺は、そんな高岡教員を責めてしまう。俺は俺で、失った痛みに苦しんでいる。

「そうだろうそうだろうよ。高岡教員はそいつを招きいれただけだ。だけどな、それで、失われたものもある!アンタは可哀想な被害者だ。だけど同時に、罪無き加害者でもあるんだよ!」

 俺の大声に、彼女の肩が大きく震える。

「加害者……?」

「神隠しが、今まさに再び起こってる」

 彼女の灰色がかった瞳が驚愕に見開かれる。

「わかるだろう?アンタの周りが春過を忘れたように、今はアンタが、花折を忘れてるんだ」

「かおり……?」

 俺は、曇り空のように不安ばかりが募る瞳を真っすぐ覗き込む。

 ああ、アラートが五月蝿い。

「そうだ。俺の友達が消えたんだ。アンタの気持ち、俺は分かるよ。アンタと俺は今同じ想いを抱えてる。取り返したいって。守りたいんだって」

 できるだけ真摯に。俺ははっきりと声を出す。願うように。祈るように。乞うように。

「だから、俺を、助けてくれ」

 簡単な事なんだ。そして俺は秘密を伝える。合意を得るために。彼女の情に縋る。

 俺の願いを、彼女はただ静かに聞いていた。そして彼女は頷いた。

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