僕が緩やかに眠りにつくまで、君は踊って待っていて 06
「答えは、“我々の存在を認識した地球人と間での恋愛構築・学生編”」
「……は?」
「馬鹿な内容だろう。でもそれをクソ真面目にそいつは調査してたんだ」
「なんだそれは……じゃあ私との事も実験として……?」
高岡教員の柳眉が寄せられる。
「貶めるな。最後まで聞け」
彼女は細い顔をゆがめたまま、涙を滲ませた目で俺を睨み付ける。
「何だ!お前等はいっつもそうだ!そうやってちょっと高いところから人間を見下ろして!!」
「違う」
俺たちはお前等を見上げている。眩しいものを見るように。掴めないのに手を伸ばす。
「あいつは何度も何度も報告書を上げて、その度に未達成の評価を突き返されて学生を続けていた」
「あの春過がレポートで未達成……?あんなに優秀な子が?」
「そうだ。あいつはずっと繰り返していた。恋する日々を。死んだよう生き永らえながら繰り返していた。それに終止符を打ったのが高岡教員、アンタだ」
「えっ?」
「気付けよ高岡教員。最後に春過は、誰と居た?」
「…………」
「そうだ。アイツが出した去年の報告書。ざっと読んだけど傑作だったぜ。本人に出せなかったラブレターを全部纏めて提出してやがるんだから」
葉切の部屋で参考にと見せられた報告書は、本人が大真面目に書いているのが分かるが故に抱腹絶倒の出来栄えとなっていた。まず学生編なのになぜ教師に対して恋愛感情を抱いてしまったか、年上の地球人女性の素晴らしさは何なのかなどという論述を、緻密なまでの構成で書き上げだ文章力には噴出しながらも感服さえした。
「そんな……彼は私には何も」
「宇宙人にだって構造は違うが思考も感情もある。恥ずかしかっただけだよ」
「でも、最後の頃は話してもくれなくて……」
「必死だったんだ。その報告書が通らなかったら、また繰り返さなきゃならなかったから。大人になりたくて、あんたに追いつきたくて、あいつは受験勉強よりよっぽど苦しい戦いを続けてたんだ」
「私の為に?」
「そうだ。高岡教員、あんたの為に」
かたかたと震えるその肩を、思わず抱き締めたくなったが、俺がそれをするのは余りにもずるい。
「アイツは全ての言葉を報告書に連ねた」
そして、教官――地球人との異星間交遊の先達である征木葉切その人に思いの丈はぶつけられ――
「その……評価は?」
「式には呼ぶように。だと」
「なっ……私達はそんな!!」
初心な小娘のように、高岡教員の顔が紅くなった。だがすぐに冷静な表情へと戻る。
「じゃあ、春過はもう合格していた……?」
「そうだ。大手を振って高校を卒業できる権利を得ていたんだ」
「そんな、話が違う!」
掛かった。
「へえ、誰との?」
口を滑らしたというように、はっとして高岡教員は口に手を当てた。だがもう遅い。
「やっぱり、アンタと春過の他にもう一人関係者がいるんだな?」
ここからだ、俺が葉切から得た情報を流してまで聞き出したかった情報。そして必要とする合意(コンセンサス)を引き出すために。
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