僕が緩やかに眠りにつくまで、君は踊って待っていて 05

「春過は今のサイクルで学校生活にピリオドを打つのだと酷く自分を追い込んでいた。任務を達成しないとまたサイクルが回ってしまう。今回を逃したら次は先生がおばさんになってしまうから、そんな軽口を叩きながら」

 確かに我々は外殻(ハードウェア)の時間経過を自由にコントロールできるが、地球人ではそうは行かない。三年経てば三年分の老化が進む。

「三年に進級した辺りから、春過は私と疎遠になった。今度こそ今度こそと、それこそ呪いのように同じ言葉を繰り返した。私は、君さえ良ければ何時までも待つよなんて言ったけど」

 その言葉の何て空虚な事か。

 ぽろぽろと、何時の間にか高岡教員は涙を溢していた。

「私は気楽なものだ、彼が失敗しても、彼の事を忘れてのうのうと生きていけば良いだけなのだから。だけど春過は違う……」

 安定生存機構(マザーオブグリーン)に情状酌量などという言葉は無い。ただサイクルをシステマチックに、淡々とセットされた通りにシークエンスを回す。俺はそれを悲しいと思ったことなど無かったけれど。

「春過からすれば……大事な人間ができてしまった奴からすれば、サイクルが回るって言うのは世界が終わるのと同じことなんだろうな」

 砂時計を引っ繰り返すように、一瞬にして三年間の全てが無に還る。残酷な言い方をすれば、春過にとっては既に高岡教員は一度喪失してしまった存在だったのだろう。彼女と培った一度目の三年間はもう何処にも残ってはいない。

「でも、それでも春過はアンタにまた恋をした」

 彼女だけが歳を取って、自分の事など微塵も覚えていなくても。

 それでもまた恋をした。

 愚かしい程に、馬鹿馬鹿しい程に、恐ろしく純粋な程に。

 それでも、南栄春過は、また高岡満に恋をしたのだ。

「……アイツの任務、なんだったと思う?」

 俺は先ほど葉切から聞いたばかりの、今こうしてもがき苦しむ彼女だけは聞く権利のある情報を提示する。

 聞かせておくことで今後の展開を有利に進める事まで折り込んだ上で。

「わからない。ずっと学生だったんだから、それに関係することなんだろう?」

 惜しい、ような惜しくないような。

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