僕が何に殺されそうなのかを、君は知らないまま 12
とは言ったものの、俺は部室から飛び出してヒントを求めて駆けずり回ったわけではない。暴力の嵐のなか唯一無傷だった自分の鞄から、学習用端末を取り出す。
そう、事件は会議室の中で起きているのではなく現場で起きているのだとしても、この二〇五五年に宇宙人の俺がまず頼るべきはインターネットだ。学校に設置されているアクセスポイントを経由して学内ネットワークから通常のインターネット回線へと繋ぐ。そこからならば、我々・comへ接続することができる。
ログイン画面を表示させると液晶に付随した指紋センサーを利用して認証を行う。ノートサイズの液晶に、前回と同様これでもかというほど赤いポップアップが浮かび上がる。邪魔だ、と俺は液晶を割らんばかりの荒さでその泡を叩き落していった。
「ん……?」
やっと下に隠れていたトップ画面が見え始めた。だがそこに至るまでに俺は疑問を感じてその手を停止させる。警告(アラート)の中に、俺がもっとも懸念しているものが抜けていた。
「花折に関する警告(アラート)が無い……?」
おかしい。あのオーロラの夜に花折は削除容認対象に認定されたはずだ。そして俺は確かに花折の横で母艦からの解析光を受けていた。それ即ち削除容認対象を作り出した事に俺が関わっていたということの紛れもない証拠だ。母艦の安定生存機構(マザーオブグリーン)がそれを見逃すはずが無い。必ず俺には経緯を確認するための報告義務が発生しているはずだった。
何故だ?俺は慌てて自分宛に送られたメッセージや、我々に関する情報漏洩ニュースのカテゴリーを漁る。だが遡っても俺たちが起こした広域振動信号(オーロラ)に関するニュースは見つからない。
あれが、事件として認識されていない?そんな馬鹿な。あれだけの現象を起こして?
俺は信じられない思いで削除容認対象の一覧を開いた。当然花折は載っているだろうと思い、一度として確認していなかったのだ。そこには我々の知りうる限りで、秘匿レベル10以上の情報を握る者――我々の正体を知ってしまった者や、我々の痕跡を見つけた者が詳細な情報と共に手配書として貼り出されている。そしてここに載っている地球人は記憶消去を任務とする我々に迅速に処理されるのだ。殆ど起こった事は無いが、当初俺が目論んだように任務外の者が殺すことも規程上は許されるている。そんな地球人達のリスト。
だが在ろう事か、そこに征木花折の手配書は無かった。
俺は混乱してリストを何度も確かめる。だが見つからない。
「まさか――ここの情報まで消えたのか?」
大気圏すら越えた先の、母艦の安定生存機構(マザーオブグリーン)に格納された情報まで?
まさか……これは本当に神隠しなのか?
俺は呆然として端末を取り落とした。
嫌な音を立てて、液晶が罅割れた。
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