名前のない少女編
第10話 山猫と猫の少女
山猫と猫の少女の奇妙な話
※
私は猫よ。名前はまだないの。
…………ほんとは付けてもらったんだけど気にいらなかったの。だってご主人様の苗字で呼ばれるのよ! 私はご主人様と同じ人じゃないんだから! 失礼しちゃう!
なぜか人間達は私に名前を付けようとしてたわ。いろいろな案を出されたけど全部ダメね。もうめんどくさくなったから勝手に呼ばせてるわ。
――――――――誰かいい名前を付けてくれる人はいないかしら……
私がここに連れてこられてから1年くらいがたったわ。ここはジドーホゴシセツってところみたい。その間ご主人様にも先生にも会えてないの…………。ご主人様は私のことをイジメ……しつけるから怖いけど、先生は優しかったな。
「また先生に会えたらいいのにな……でもジョーブツしちゃったみたいだし…………」
さて、そろそろ主発するわ。どこに行くかですって? ここは猫の私には居心地が悪いから逃げ出すのよ。そうね、山にでも行くかしら。ネズミもいっぱいいそうだし。
※
「ふぅ……。案外山って近くにあるものね」
これからどうしようかしら。
「そうね、まずは食べ物を探さないと……ネズミ、いるかしら…………」
そういえばネズミを食べるのも久しぶりだわ。ネズミがいそうなところを見つけないと。
※
「!…………なんだ人間の子供が山に紛れ込んだか。子供一人とは珍しい」
「…………」
「なぜそんなに見てくるんだ……。猫など珍しくないだろうに。まあ私は山猫だがな」
「あなたは山猫なのね」
「ウニャ!…………お前、私の言葉を理解できるのか?」
「ええ、できるわ。だって私も猫ですもの」
「お前は人間……いや、確かに普通の人間とは違う匂いがするな…………。お前、過去に何かあったのか?」
「私は普通に生きてきただけよ」
「しかしここはお前のいるべき場所ではない。早く家に帰れ」
「帰る家なんてないわ」
「いや、しかし…………」
「ないの!」
「…………」
「じゃあこの山を案内して、山猫さんっ」
「…………」
こうして私は山猫さんと出会ったの。
山猫さんには山のことをいろいろ聞いたわ。ネズミの居場所や川の位置、雨風がしのげる寝床。山での生活は楽しかったわ。ジドーホゴシセツとは大違い。
その中でも一番楽しかったのは…………
「いいか。あそこに子ウサギがいる。風下から近づくんだ」
「うん」
「足音を殺して、そうだな、お前の足で9歩以内の距離には近づけ」
「分かったわ」
「今日はお前は見ていろ」
そういって山猫さんは足音を殺して子ウサギに近づいていき…………バッ…………見事に子ウサギを捕まえた!
「凄いわ! 山猫さん! でも私も近づければできそう! バッ、のやり方は先生に教えてもらったから」
「バッ? 先生?」
「よーし、今日からいっぱい練習するぞー!」
「…………」
私は狩りの仕方を教えてもらったの。狩りはとっても楽しかったわ。なんか生きてるって実感できたから。
私はどんどん練習してどんどんうまくなっていったわ。もちろん最初は失敗ばっかりだったけど…………2ヶ月も練習したらかなり成功するようになったわ。
でもこの狩りがいけなかったの…………。私は狩りが楽しくってしょうがなかった。だから意味なく生き物を殺すことがどれだけ悪いことか分からなかったの…………
「見て見て、山猫さん! 私一人でこんなに大きなキジを狩れたのよ!」
「…………お前はそのキジをどうするんだ?」
「えっ……どうって…………」
別に意味なんかないけど…………
「お前は何の意味もなく生き物を殺したんだね。自分が必要とする以上の殺しを行った」
「…………だって狩りをするのが楽しかったんだもん」
「…………やはりお前は人の子なのかもしれんな……意味のない殺しは自然の摂理に逆らう。自然の摂理に逆らった者をここに留めて置くことはできない……。この山から出て行け」
「待って! 私が悪かったわ! これからはこんなことしないから……」
「…………そういうわけにはいかん。早く出て行かないと私がお前を殺さねばならない」
「…………」
「…………出て行け!!」
「!!…………はい……山猫さん、今までありがとう……」
私はせっかく見つけた自分の居場所を失ったの
――――私はまた一人になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます