第3話昼休み会議

「なあ浦智うらち、どうやったら上がると思う?」

 午前の授業も終わった昼休みの時間、俺らはいつもの様に二人で飯を食っている。

「そんなん、女の子が男子のどこを見て判断してるのか考えればすぐ分かんじゃん。」

 朝来る時コンビニで買ってきたのであろうパスタの包装を破りながら浦智はさも知った様な顔をして言っている。

「どこだよ。」

 対称的に俺は母親の手作り弁当を咀嚼している。毎日食べているから思うが、ちくわはおかずにならない。

「顔だよ、顔。」

「お前それは、俺に今後を諦めろと言ってるのか?」

「そんなつもりは無いよ。あれっ開かねえな...、あっシール付いてた。いいか?考えてみろよ、暮林くればやしみたいなつまらない顔が良いって言ってくれる人がいるかも...」

「俺をつまらないって言うんじゃねえ。」

「お、おう...」

 気のせいだろうか、浦智が震えながら俺を見ている。俺の顔ってそんな震え上がるほどのものなのか。そう言えば、持ってた箸が四つに増えてるな。

「割り箸あるからやるよ...」

「わりぃな。」

 何でパスタ買った奴が割り箸を持ってんだ?


「さっきのは冗談だとしても、倍率上げたいなら女子からの好感度を上げないと。」

 それをどうやるのか分からないから聞いてんだろうが。

「やっぱ第一印象って大事じゃない?フォーク...フォーク...、あれ入ってねぇのか...あ、あった。でも暮林の顔ってつまらないから印象も何も...」

「何か言ったか?」

「いや...、何でもない...」

 俺の顔を弄るのも大概にして欲しいものだ。それにしても最近の箸は壊れやすいな。

「ほら、このフォークやるよ。フォークって言ってもスプーンの先がフォークみたいになってるやつだけど。」

「わりぃな。」

 今日の浦智は随分と優しいな。


「さっきのも冗談として、あれだよ、印象としてはさ笑顔でいる事って大切じゃない?」

 食べる手段を失った浦智が爪楊枝でパスタを巻きながらそれを言っているが、その表情に笑顔はなく真剣そのものだ。

 浦智の言う事は一理あると思う。無愛想な顔の男より笑顔でいる男の方が印象が良いに決まっている。しかし、笑顔でいるってなかなか大変な事じゃないか?

「それにさ、俺達まだ知り合ったばかりじゃん?クラスメイトの顔と名前だってまだはっきり...はっきり...、くそっ食えねぇ......、お、いける!いけ...よしっ!」

 浦智はパスタを爪楊枝で食すのに必死だ。見ていて段々哀れに思えてきた。何故こいつは爪楊枝で食べているんだっけ?

「だからさ、第一印象とまではいかないけどさ、これからの印象を良くしていけ数値も上がるんじゃない?女子って男子が思ってるより人の事を見てるらしいさ。」

 そう言ってコツを掴んだのか、器用にパスタを巻き口に運ぶ。


 俺達がこの高校に入学してまだ日は浅い。浦智の言う通り、名前を覚えている人の方が圧倒的に少ない。言い換えれば、俺にはまだチャンスがあるという訳だ。そう、女子とお近付きになるという一生一代の大チャンスが。

「まあ、暮林のことを良いって言ってくれる女子がいればの話だけど.........すいません...」

 きっといる。そうこれだけ女子がいるんだ一人くらいいてもおかしくはないだろ。それに倍率だって「0.6」もあるんだ。少なく見積もっても「0.1」の数値分良いと思ってくれてる子が6人もいる訳だろ?素晴らしいじゃないか。少なく見積もっているのは一人あたりの数値の事だ。出来ることなら高い数値の子が一人とかで充分だ。

「何にせよ、俺達はまだ始まったばかりだからな。それにしても...食いにくい...」

 とりあえず倍率が「1」になるよう頑張ろうじゃないか。まずは笑顔でいる事を心掛けるか。

「どうした暮林、気持ち悪い...痛い!!」


 余談だが浦智がパスタを食べ終わったのは昼休み終了二分前だったという。


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